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2025.01.24

【第15回】

イタリアの街中にも酔っ払いはいるのか?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリア人のお酒の飲み方についてお話しします。
massi   思考する食欲 イタリア料理 酒の飲み方
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イタリアと日本の共通点の一つは間違いなく、お酒好きな人が多いことだ。でも、お酒に対する感覚と付き合い方の中には、いくつかの違いも隠れている。日本では考えられない現実もたくさんあるから、今回はイタリア人の僕とお酒を飲んでいるように楽しく付き合ってくれない? 

お酒好きな人にとって、住みやすいのはイタリア? それとも日本? お酒の文化や酔っ払い、お酒の飲み方などはどうなっているのか、イタリア現地の現状をみなさんにお届けする。
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▲ イタリアのバール。イタリア人は普段からテンションが高いから酒を飲んでもあまり変わらない。
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みんなが口を揃えて「とりあえず生!」、ってなんだ⁉

僕が日本に来た当初、分からなかった日本語がある。それは、居酒屋などでよく聞かれるあの言葉。「とりあえず生!」だ。会社の人と居酒屋に行き、席についた途端にみんなが口を揃えて言っている。おそらく飲み物のことだと思うけど、とりあえず? 生? どういうこと?? と混乱していた。

しかも、日本のサラリーマンは会社を出て居酒屋に入ると、中身が変わったように明るくなるのだ。元々落ち着いている人も、明るい人も、関係なくみんながよく喋り笑顔になる。仕事から解放されてお酒をワイワイ飲める喜びが、そうさせるんだ!それに気付いた頃、「生」が生ビールのことだということも分かってきた。そして、僕も同じように「とりあえず、生!」と魔法の言葉が自然と出るようになっていた。

そして、イタリア人はというと、お酒が進むにつれ酔っ払うこともあるけど、そう見えないことが多い。イタリア人は普段からテンションが高くてよく喋るし笑うし歌うから、お酒によって行動が変わることが少ないんだ。そしてお酒を楽しみたいからこそ酔っ払うまで飲まない。

ちなみに、日本ではお酒を飲むのは夜であることが多い。でも、イタリアではお昼から普通に飲むよ。仕事の休憩中にもランチで1杯ワインを飲むことがある。これは日本では考えられないよね?
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▲ イタリアのレストラン。昼から普通に酒を飲む人もたくさんいる。

なぜお酒が残っているのに次の一杯を注文するの?

お酒の飲み方の違いは注文の仕方にも現れる。日本人はグラスにお酒が残っていても、次の注文する傾向があるよね? テーブルにグラスが増えないように、注文した後に残りの酒を急いで飲む。この経験がある人が多いと思う。イタリア人はグラスが空でも注文せずに、そのままお喋りを続けることが多いよ。要するに気にしないんだ。まず何を食べたいのかを考えて、相手に合わせながら最後にお酒を頼む。席についてまずはお喋り、そしてやっと料理を注文し、その料理に合わせたお酒を頼む。「ピッツァを頼んだからビールだよね」という感じだ。

そして、ここで紳士に欠かせない行動があるのを知っている? お酒だけではなく、飲み物を注ぐという行動に、日本とイタリアの違いがあるのよ。日本では女性が男性に注ぐのが一般的な習慣だけど、イタリアでは絶対させない! 男性にとって女性は、人生の中で最も大事な存在だから、男性が注ぐんだ。お酒より女性の方が大切な存在ってことだ。年齢も関係ない。年上だろうが年下だろうが、女性が誰かのグラスにお酒を注ぐことはほとんどない。
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▲ 我が家のワインストック。これくらいあるのが普通。

公の場ですごく酔っ払ったら警察に連れていかれることも 

日本とイタリアが共通しているのは、お酒を買って公園や道などで自由に飲めることだ。だけど、イタリアでは公の場で酔っ払ったら、逮捕までされないけど罰金が科される。もし酔っ払いがだんだんエスカレートしたら、警察署まで連行される場合もあるんだ。意外だよね?

お酒によるマナーの悪さやポイ捨てなどは社会問題にもなっていて、現にイタリアの中でも、たとえばヴェネツィアや教会の前など、限られた街や場所によっては公の場で酒を飲むのが禁止され始めたんんだ。
お酒の購入については大きな違いがある。日本ではお酒を飲もうと思ったら、コンビニや24時間営業のスーパーで簡単に買えるよね。これだけですでにお酒天国な気もしている。一方、イタリアの場合は、家にワインやお酒のストックがある。いつでもお気に入りのお酒を飲めるように準備しているのだ。実家もそうだった。ある家具の扉を開ければワイナリーのような風景になる。

なぜストックしているのかというと、イタリアでは日本と違って24時間営業のスーパーなどが非常に少ないから。もし、どうしても飲みたいとなったらバールに行けば、ビールやワインを簡単に買えるからある意味、日本のコンビニ感覚になっているといってもおかしくない。
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▲ 理想的な空間に囲まれていればそれ以上、お酒は要らないんだ。お店はトリノのピッツェリア。

イタリア人にとって「お酒」は人生のスパイスだ!

お酒を飲むのは楽しくて、より最高の時間を過ごせる。僕もそうだけど、多くのイタリア人にとって「お酒」とは、人生のスパイスだ! たとえば、出来上がった美味しい料理を一口食べて、「少しだけスパイスのアクセントも欲しい」と思いながら振りかけてみる。その結果、ちょうどいい辛さになると同時に想像通りの味になる。お酒もこんな感じで、なければ問題ないけどあればよりイキイキする。このバランスを覚えれば、グラスが空になっていても気にしない。追加もしない。なぜならば、すでに理想的な空間に囲まれているからだ。
イタリアでは、子どもの時から両親などを見てお酒の付き合い方が学べる。日常生活にある飲み物の一つとして、暮らしに寄り添った存在だ。仲間と楽しい会話さえあればお酒は水のような感覚になり、「お酒を飲めるだけ飲む」という意識がないから酔っ払いにくくなるかも? 人生に優しいアクセントが欲しい時に、お酒はピッタリだ。人のようにお酒にも性格があるし、付き合い方によって関係が深くなる。

みなさん、ここまで読んでいただいて、あなたにとっての「お酒の存在」が変わりましたか。女性のように優しく付き合わないとダメだよ? そして、空になったグラスは終わりの始まりを告げる。しかし、その中に残る余韻は、過ぎ去った喜びの証だ。
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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