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2025.02.14

【第16回】

ローマの至宝「カルボナーラ」がアメリカ発祥! って本当なのか?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリア人の大好きな「カルボナーラ」誕生の秘密についてお話しします。
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ローマ発祥でイタリアを代表するカルボナーラはピッツァと同じくらい有名で、食べたことがない人はおそらくいないと思う。面白いのは、「カルボナーラの作り方」について、よくイタリア人同士で喧嘩になることだ! 

そのなかでも特にローマ人は、カルボナーラの作り方にとにかくうるさい。ローマ人にとってのカルボナーラは、もはや家族の一員なんだ。気をつけないと喧嘩になりやすくて、絶対に出るのは「一般のベーコンを使うとカルボナーラの偽物」「中部イタリアの伝統的なグアンチャーレ(畜肉加工品)がカルボナーラの元だ」「生クリームは絶対ダメだよ」「カルボナーラのソースは卵の黄身だけだよ!」など……わけのわからない会話になる。

ピエモンテ人の僕はマンマのカルボナーラが大好きでよくお代わりをしていたけど、ローマ人から見ると「カルボナーラじゃないぞ? なんだこれ?」と絶対に言われると思う。
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▲ ローマのカルボナーラ。

19世紀、イタリアの炭鉱夫たちが食べたというけれど

今回は、もしかしたらローマ人に失礼な内容になるかもしれない。でも大切なことだ。今回書くテーマは、なんと「カルボナーラはアメリカ発祥」という、驚きの内容! 事の発端は、イタリア食の研究者 Marco Guarnaschelli Gotti (マルコ・グアルナスケッリ・ゴッティ著)のある発言だ。

「カルボナーラのレシピは1954年に発行された料理雑誌『La Cucina Italiana』に登場する以前の記録が一切ない。ということは、イタリア発祥ではないのではないか」
どういうこと? と思うよね。読者の日本人も驚いたり言葉を失ったりするかもしれないけど、まずは最後まで読んでもらえば納得できるよ。では、カルボナーラの戦場に入っていこう!

マルコさんの発言を解説する前に、まずはイタリアで一般的に広く知られているカルボナーラの発祥を紹介しよう。19世紀(1800年代)、イタリアの炭鉱夫たちは、アペニン山脈で炭を作る時に、手軽に作れる栄養価の高い料理としてカルボナーラを考案したという説。カルボナーラの材料である卵やベーコン、チーズは、当時手に入りやすい食材であり、パスタは炭水化物を補給するのに最適だった。ところが、その説を裏付けるレシピは、当時のどの料理本にも記載されていないんだ。要するに、根拠がない説ってわけ。
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▲ ローマの風景。

アメリカ軍の食料庫にあった具材を使って作った?

証拠がないのに、なぜこの伝説は未だに強く存在しているかというと、僕たちイタリア人は子供の時からずっとカルボナーラを食べながら聞かされてきたから。特にローマでは必ずと言っていいほど聞くストーリーで、地元愛がとんでもなく膨らむんだ。カルボナーラの話は中部イタリア(主にラツィオ州ローマ近辺)のアイデンティティにもなっている。

さて、そろそろ、冒頭の謎を解説していこう。マルコさんが言った「カルボナーラはイタリア発祥である証拠がない」についてだ。カルボナーラ誕生に関する重要なエピソードとして、1944年9月22日にイタリアのリッチョーネで行われたアメリカ軍とイギリス軍の会合が挙げられる。

この時、イタリア人シェフのRenato Gualandi(レナト・グアランディ)さんがランチを担当することになった。アメリカ軍の食料庫にあった卵や良質なベーコン、チーズを使ってパスタのソースを作り、仕上げに黒コショウを加えた。すると、この料理が両軍の兵士たちの好みにぴったり合い、大好評だったようだ。その後、レナトさんはローマにあるアメリカ軍の本拠地でシェフとして雇われることになって、これが「カルボナーラ=ローマ発祥」と言われる由縁になったんだ。
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▲ こちらはローマの名物パスタ料理「カチョエペペ」。名前はチーズと黒コショウを意味する。卵は使わない。

1950年代、カルボナーラはまだ定着していなかった 

あのカルボナーラがまさか、アメリカからやってきたものだったなんて! 作られた場所はイタリアで作ったのはイタリア人。だけど、食材はアメリカ。なんだかカルボナーラがどんどん複雑になっていくよ。でも確かに、冷静に考えると、アメリカといえば卵とベーコンのイメージが浮かんでくるよね? 朝食やバーガーなどによく使われる食材。僕が思うに、この朝食用の食材を使ってカルボナーラが生まれたんじゃないの⁉ これは驚きの発見だ。

マルコさんも言っていたけど、イタリア国内でカルボナーラのレシピが初めて文献に登場するのは、1954年に発行された料理雑誌「La Cucina Italiana」。ただし、このレシピには卵のほかにニンニクやグリュイエールチーズが使われていて、現在イタリアで一般的とされるカルボナーラとは少し変わったものだった。当時のイタリアではまだカルボナーラが定着していなかったことを示す、ひとつの証拠だよね。
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▲ ローマのスペイン広場。

美味しいカルボナーラを食べられればそれで充分

翌年発表された家庭料理のレシピ本には、カルボナーラの材料として卵とベーコン、パルミジャーノ・レッジャーノが書かれていて、この頃から現在の形に近いカルボナーラが家庭料理として浸透し始めたと考えられる。

1960年頃になると、イタリアではベーコンの代わりにグアンチャーレを使うようになって、カルボナーラのレシピがさらにイタリアっぽく進化していく。シンプルな材料だからこそ、時代とともに少しずつ変化して、現在の伝統的なカルボナーラは卵、グアンチャーレ、ペコリーノ・ロマーノ、そして仕上げの黒コショウというスタイルに落ち着いた。

これが、「カルボナーラはアメリカ発祥」の真相だ! でもあくまで、これは一説に過ぎない。皆さん、この記事を読んで、カルボナーラはアメリカ発祥だと思う? それとも、ローマ発祥だと思う? 美味しいカルボナーラを食べながら大切な仲間とこの謎を解決しようとすると、カルボナーラのあまりの美味しさに、発祥のことをきっと忘れると思う。要するに、美味しいものを楽しく味わえれば、それだけで十分だ。
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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