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2024.09.06

バレリーナの美しさを支えるものとは? 「体型を気にしすぎて踊りどころではなくなる子もいます」

ルッキズム批判の一方で美容整形の流行など、「美」の概念がゆらぐ現在。全身を使って美を表現するバレエの世界にも影響はあるのでしょうか? 3人のバレリーナにお話を伺いました。

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写真/グレイ・ジェームズ(ジゼル、クララ)、玉井 美世子(オーロラ) 取材・文/木村千鶴

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写真/shutterstock
頭のてっぺんから指先、足先まで、全身を使って心情を美しく表現するバレリーナたち。

ルッキズムが批判される一方で、美容整形が流行りSNSでの自己アピールが過熱する現在、「美」の概念のゆらぎはバレエの世界にも影響しているのでしょうか。

バレリーナ経験のあるジゼルさん(32)、クララさん(28)、オーロラさん(27)さんに、バレリーナにとって美しさを尋ねました。優雅な白鳥も水面下では足掻いているようです。
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ジゼル(32)

3歳よりクラシックバレエを始める。小学生からさまざまな舞台に出演、大学時代より本格的にミュージカル俳優として活動。

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クララ(28)

6歳よりクラシックバレエを始める。現在ミュージカル俳優、ダンサー、ダンス講師。

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オーロラ(27)

ロシアのバレエアカデミー卒、ロシアのバレエ団に入団と同時にアカデミー大学部教師科でワガノワメソッドに基づく指導法を学ぶ。現在フリーダンサー、バレエ講師。

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美のために身長も体重も厳しく制限されてきたバレリーナたち

── 本日はバレエやミュージカルなど身体で美しさを表現してきた皆さんに、「美」についてさまざまなお話を伺いたいと思います。まずバレリーナというと、あの細い身体で跳んだり跳ねたり……体型管理が大変だと思いますが、実際はどうなのでしょうか。

クララ 最近は少々ゆるくなったと思いますが、以前はカンパニーによって「身長は〇〇cm以上」と決まっていました。そして、日本のバレエ界では特に「細いにこしたことない」という意識があります。

オーロラ 私は15歳からロシアのバレエアカデミーに留学したのですが、アカデミーには身長に対する体重の表があり、それを超えると受けられない授業が出てきます。

そのラインを越えるのが怖くて仕方がなく、自主的に食事制限をしてしまったんですね。その時は細いことが一番いいと思い込んでいました。
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── ロシアでも日本でも体型管理は厳しいのですね。クララさんとジゼルさんはどうでしたか。

クララ 私の場合は、太らない体質だから向いているかもしれないと母の勧めで近所のバレエ教室に通い始めたのですが、思春期の頃から普通に太るようになって、食事制限をするようになりました。管理栄養士さんがついて、お弁当とかも全部グラムで計算されていました。

ジゼル 私は途中からミュージカル俳優の道に進んだのでサイズに関してはそこまで悩みませんでした。

ただ、周囲には体型を気にして拒食と過食を繰り返して、踊りどころじゃなくなっちゃう人も少なくなかったです。まだ若い頃は視野も狭く、「私にはバレエしかない」と思い詰めてしまうので余計かもしれません。
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クララ まさに私がそうでした。高校から芸術系のバレエコースに行っていたので、生活のすべてがバレエ。

周囲のみんなが体型を非常に気にしていたので、自分も十分細いのに他の子と比較して太っていると思い込んでいました。

── 子どもの頃から痩せていることが正しいと言われ続けるのはかなり辛いと思います。細さ以外でも、外見において気にすることありますか?

ジゼル 手足が長いと表現力があるように見えるんです。これは経験則ですけど、実力が拮抗していたら手足の長い方が美しく見えて賞レースでも勝てる。そしていい役にも選ばれると思います。

オーロラ 私は中学生の時にすでに身長が162cmを超えており、手足も長く、体型的には恵まれていたのですが、実はそれがコンプレックスにつながってしまいました。

── それはなぜでしょう?

オーロラ 「自分には体型しか取り柄がないのではないか」と思い込んでしまったんです。それで体型だけは維持しなければと食事制限をしすぎて、摂食障害のような状態になったことがあります。

心配して支えてくれた友人のおかげもあり、大事には至りませんでしたが、克服するまでに10年近くかかりました。

ジゼル 何がコンプレックスになるかは本当にわからないですね。
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近年では、個性に基づいた美も認められるように

クララ ただ最近、オーロラさんのように海外で活躍していた先生たちの間で、見た目に関して言うのをやめようという声が増えてきているんです。先生たちにも拒食や過食を繰り返してしまった辛い経験があるから。

そして海外には大柄なダンサーも多く、個性や柔軟性の中にある強さなどが美しいとされるようになってきて、価値観が変わりだしていると感じます。

オーロラ そうですね。私はまだ小さな子どもの講師しかしていませんが、今後生徒たちが間違った食事制限などせず、正しい知識をつけられるように尽力したいと思っています。

── バレエ界の中でも新しい概念といいますか、美しさの幅が広がっているんですね。

クララ 今は、海外に進出したダンサーの様子もSNSを通して見られるわけですが、彼女らは単にガリガリなのではなくちゃんと筋力もある。そうした美しい細さを若い子たちが目にする機会が増えていると思います。

ジゼル SNSがいい方向に動いてる例ですよね。
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子どもの頃から一筋に続けても、プロの道は険しい

── オーロラさんはロシアでプロとして活動されていたと伺いました。

オーロラ はい。でも、すんなり入団が決まったわけではなく、一度は帰国して苦しい時期を過ごしました。

クララ その後、どうやって入団したんですか。

オーロラ それまでの私は、あまり意地もこだわりもないのんびりしたタイプだったんですが、入団が決まらない時に初めて「ここまで頑張って1回もバレエダンサーにならないで終わることはできない。絶対に逃げない」って自分で思えたんです。

ロシアにはバレエ団がたくさんあるから、ひとつくらい入れてくれるところはあるだろうと電話やメールをしまくり、気付いたことがありました。

やっぱり上手さも重要ですが、バレエ団がその時に必要としている体型の人が受かるんですよね。
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── やはり決め手はサイズなのですね。

オーロラ はい。バレエ団によっては170cm以上の女性しか入れないところもあれば、今は150cmの人が欲しいというところもあるんです。だから断られても折れずに門を叩き続けて、ひとつのバレエ団に所属することができました。

ただ、なかなか入団が決まらなかったので、ワガノアメソッド(ロシアバレエの教授法)を学び、バレエの先生の資格を取るための大学受験をしていたので、結果としてバレエ団員と大学生の二足の草鞋を履くことになり、とても忙しい毎日でした。

クララ すごく頑張り屋さんなんですね! でも今、ロシアは戦争で大変でしょう。その関係で帰国されたんですか?

オーロラ 実はコロナが流行り始めた頃に移籍を考えていて、ウクライナのバレエ団を受けに行っていたんです。その間にロシアが国交を閉鎖して戻れなくなってしまい、日本へ帰国するしかなかったという事情があります。

── それは大変でしたね。今は無事に日本でダンサーと講師のお仕事をされているとのことで、何よりです。

後編(9/7公開)に続く
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