
7年の間に90人近い女性から恋と性の本音を聞き出した
ナンパ師のように片っ端から声をかけていました
木村千鶴(以下、木村) なかには編集部を通じて紹介してもらった方なども含まれていますが、9割がたは私経由ですね。
林 僕はいろんな方から、出演者をどうやって見つけているのか聞かれるんです。人探しのチームがあるんですかとか(笑)。でも実際は、ほぼ木村さんがひとりで声がけして集めているという。すごいですよね。一体、声がけした人数ってどれくらいになるんですかね。
木村 カウントはしていませんが、おそらく200人くらいでしょうか。もちろん断られることもたくさんありますが、打率は高い方だと自負しております(笑)。
林 半数近くの人が取材に応じてくださったんですもんね。しかも毎回いろんな背景を持った人が出ているから、そこもすごいですよね。

林 おおぉ。
林 それは大変だ。出演者を探すのに苦労したこともありますよね?
木村 スタートした当初は週1回の連載でした。しかも職業による恋愛観の違いなどを考察する目的もあったので、いろんな職業の人を見つけてくる必要があったんです。なのでなりふり構わず、使えるものは全部使って片っ端から声をかけていましたね(笑)。
おかげさまで今では交友関係が広がり、最近は周囲の方から「話の面白い素敵な女性がいる」と紹介してもらえることも増えました。
木村 取材した後に「やっぱり出たくない」と言われてしまい、お蔵入りに……ということがありました。掲載を取り下げた記事については、ある組織の方に出演していただいたのですが、反響がもの凄かったんです。そうしたら、その組織にバレてしまい、すべて消すように言われてこちらもお蔵入りということでして(笑)。
林 そうだったんですか! あの記事は面白かったので惜しいですね〜。ずっと不思議に思っていたけど聞き逃していて、謎が解けました。

見た目はおっさんだけど、心は女子なんです
林 そうですよね(笑)。
木村 そこがすごいと思うんですけど、若い女性の気持ちをどうやってほぐしているのか。恋愛の話からセックスにまつわる話まで、よくあけすけに話してくれるなと思うのですが。何か特別なワザがあるんですかね?(笑)
林 僕はお店をやっているので、初対面の方と話すのはあまり苦にならないんです。ひとつだけワザと言えるか、「僕は見た目は凄くおっさんなんですけど、心は女子なんです」と先に言っておくと、ちょっとホッとしてくれるのがわかります。女性は男に狙われている感じが嫌なんだろうなと思うんです。
木村 確かに(笑)。最初に「僕はあなたを狙っていません」という宣言の代わりに、心は女子だというんですね。
林 あとは「今話している内容を男性たちが読んで学びにしているし、女性はわかるわ〜って共感したりもしているんです」と伝えると、冷静に、自分を客観的に見つめて話をしてくれるというのは感じます。
林 そうだとうれしいですね。ただ、例えば恋愛とはまったく関係ないことに話が脱線してなかなか戻らない時「ああどうしよう、この話にこれ以上時間は使えないし」と焦ることがあります。彼女が気持ちよく話せている瞬間が大切なので難しいんですよね。

出会いの主流がマッチングアプリやSNSのDMに変化した
林 やっぱりマッチングアプリが一番大きな変化だったと感じています。僕はバーにいるから余計にそう感じるのかもしれませんが、今、出会いの主流は確実にマッチングアプリになっていますよね。
木村 マッチングアプリは連載が始まった頃にもありましたが、まだそこまで一般的ではなかった気がします。コロナ禍で直接出会えなくなって一気に加速したのが、マッチングアプリでの出会いかなと。今では1年以内に結婚した夫婦の出会いのきっかけは、マッチングアプリが2年連続で1位だそうです。(明治安田「いい夫婦の日」に関するアンケート調査による)
林 ゲストの女性たちには必ずマッチングアプリを使ったことがあるかを聞いているんですが、かなりの人が利用していましたね。
あと最近では最初の出会いがSNSというのもよく聞きました。ハッシュタグで見つけて「いいね」をして仲良くなったり、DM(ダイレクトメール)が来て会ってみたり。そういう出会い方もマッチングアプリと同じように最近の形かなと。

木村 ここ数年で職場恋愛はセクハラ、モラハラの温床という認識が一般化しちゃいましたからね。
林 いい悪いは別にして、そのあたりの認識はすごく変わりましたね。あと、僕、「蛙化」という言葉も、このインタビューで初めて知りました(笑)。
林 まだ誰ともちゃんと付き合ったことがないという可愛らしい女性で、相手が自分のことを好きだという気配を感じると嫌になってしまう人もいました。「蛙化」とはまた違うかもしれませんが、そうなると恋愛は進まないので、難しいなと思いました。
木村 自己肯定感が低い女性が、自分を好きな男性に抵抗を感じてしまうのでしょうかね。
林 2パターンあるなと感じます。ひとつはまさに、“私みたいなのを好きになるような男は大したことがない”と思ってしまうケース。もうひとつは、男性が自分に好意を向けてくると、性欲に支配されたオスっぽさを感じて嫌になってしまうというものです。そうすると相手に生理的な嫌悪感を抱いて、無理となることもあるようです。それらを乗り越えられなかった人、またはその機会がなかった人がいるんだということを、「蛙化」という現象で知りました。

男性的な魅力と乱暴さを見分けるのは難しい
林 出演してくださった方の中には芸能活動の経験がある方も少なからずいて、セクハラやパワハラは当然のようにあるし、枕営業をする人もいるという話も聞きました。程度の差はあれ、思った以上に誰もが経験しているのだなと。
木村 そういう話は聞けばいくらでも出てくるところに闇の深さを感じました。一方でそうした社会的な問題とは別に、なぜかオラオラ系の相手を選んで付き合ってしまうとか、そういう相手に尽くし過ぎてしまうという人が一定数いたのも印象的でした。本人はそのことを良くないと思っているのにそこから逃れられないみたいな。
林 そうですね、世の中は思ったよりもモラハラ被害のようなことが多く起きているんだなと感じたし、人の好みや相性というのはままならないものだなとも思いました。
木村 それって決して珍しい話ではないんですよね。
林 ちょっと乱暴な男性を好きになりがちだと言っていた女性に、「そういう男性を好きになってもあまりいいことがないでしょう」と聞いたんです。すると「乱暴な中にも優しさもあって、そのギャップに惹かれてしまうのか、または乱暴なのと頼り甲斐があることの線引きができず、男らしさだと勘違いして好きになってしまうのかもしれない」というようなことを言っていました。

林 そういう場合もあると思いますが、一概には言えないでしょうね。本人の弱さとは関係なく、単純に、男性にオス的な強さを求める女性もいるのかもしれません。そこはわかりません。それと僕が気になったのは、家庭環境、特に母親や姉といった同性の身内からの言葉に苦しめられてきた女性も多いということです。
木村 お母さんが「あなたは可愛くない」と自分の子供に呪いのようなを言葉を言ってしまうという話ですね。なぜそんなことを言うんでしょう。
木村 本当ですね。罪深いと思います。他に印象に残っていることはありますか。
好奇心が旺盛でポジティブに自由を謳歌する女性たち
木村 恋愛やセックスの主導権を女性が握っているケースはたくさんありました。いい恋をしたい、いいセックスがしたいという気持ちは男性も女性も一緒ですからね。その気持ちをどこまで行動に移すかは別として、好奇心はあって当たり前。一方で、今では恋愛も結婚もみんながしなければいけないような時代ではなくなりました。

木村 出演者の方の結婚観に関してはどう感じました? 一般的な結婚観もだいぶ変わってきたと思うのですが。
木村 もちろんそれは大いにあるでしょうね。一方で、本人が“結婚したいのにできない”と表現をする人もいて。恋愛はいくらでもできるけど結婚はできないという人もいました。
林 それもありました(笑)。アプリなどの登場によって男性も女性も選べる相手の選択肢が広がったような気がしてしまい、求めるものも自然と多くなり、結婚という大きな契約には踏み切れない人が増えたような気もします。そうしているうちに年月が過ぎ、仕事も充実しているので、まあいいか、となる。
木村 周りにもそういう人は結構いますね。では、もう結婚しなくてもいいと割り切れているのかと思うと、「別れてもいいから1回は結婚しておきたい」という人もいて。仕事でも出世してきて立場が上がってくると結婚歴があることが価値のひとつになる、とりあえず一回結婚という名の「検品」はされておきたいという、そういう考えがあることに衝撃を受けました。

木村 でも、これまでを振り返って全体を通して思うのは、生き方として学びになる女性たちがたくさんいたということです。
林 それは本当にそうです。誰ひとつとして同じ話はなかったし、このインタビューで僕が得たものは大きいと思っています。年齢を重ねていても、若くても同じ、みなさん自分の足でしっかりと立って一生懸命に生きている、素敵な女性ばかりでした。ここで聞けた話はひとつの財産だと思っています。これからも色んなお話を皆さんにお届けできればと思います。
木村 はい、私も頑張ります!(笑)

■ bar bossa(バール ボッサ)
ワインを中心に手料理のおいしいおつまみや季節のチーズなどを取り揃えたバー。 BGMは静かなボサノヴァ。
住所/東京都渋谷区宇田川町 41-23 第2大久保ビル1F
営業時間/月〜土 19:00〜24:00
定休日/日・祝
問い合わせ/TEL 03-5458-4185
● 林 伸次(はやし・しんじ)
1969年徳島県生まれ。早稲田大学中退。レコード屋、ブラジル料理屋、バー勤務を経て、1997年渋谷に「bar bossa」をオープン。2001年、ネット上でBOSSA RECORDSを開業。選曲CD、CDライナー執筆等多数。cakesで連載中のエッセイ「ワイングラスのむこう側」が大人気となりバーのマスターと作家の二足のわらじ生活に。小説『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる』(幻冬舎)、『なぜ、あの飲食店にお客が集まるのか』(旭屋出版)、『大人の条件』(産業編集センター)、『世界はひとりの、一度きりの人生の集まりにすぎない。』(幻冬舎)。最新刊は『マスター、お酒の飲み方教えてください』 (産業編集センター)