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2025.04.11

【第20回】

イタリア人はなぜすべての服にアイロンをかけないと気が済まないのか?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

イタリア人のこだわりお洒落は誰のため?

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回は6年ぶりのイタリアへの一時帰国で感じたイタリア人のお洒落のこだわりについてお話しします。
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▲ 隣はいつもダンディなマンマのパートナー。僕もとても仲良しです。
ファッションのこだわりが強く、フォーマルからカジュアルな格好までセンスがよくて、自分らしさを活かせるイタリア人をもし道で見かけたらひと目でわかるよね? なんとなくイタリア人っぽい雰囲気が伝わってくる気がする。このこだわりと雰囲気にお洒落さを感じながらも、「なぜ完璧に服を着こなせているのか?」と疑問に思ったことはある? きっと、多くの人が気になるポイントではないかと思う。

いつもエレガントでいる理由には文化的、歴史的、社会的な要素が関係しているのだ。では、なぜイタリア人はスタイルに敏感なのか、その秘密を探るとともにイタリア流のエレガンスの特徴について見ていこう。
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▲ 最新の衣類スチーマーはこんなに早く済むのがありがたいです。

イタリア人は白い靴下を履かない

日本在住が長くなった僕は、久しぶりに一時帰国してイタリア人の服装を観察をして改めて目が覚めた。自分がイタリア人であることを思い出したんだ。まず驚いたのは、2週間半の滞在中に白い靴下を履いているイタリア人を見かけたことがないってこと。イタリアンファッションの基本では、スポーツ以外に白い靴下を使わないんだ。なぜかというと、白い靴下はどんな服装にも合わず、遠くからでも目立ってしまうから。

長ズボンであろうとショートパンツやバミューダパンツであろうと、何と組み合わせるかは関係なく、とにかくメンズファッションにおいて白い靴下は常に避けるべきだというのがイタリア人の考え方。

日本ではあまり聞かないと思うけど、イタリアでは「ベッラ・フィグーラ(Bella Figura)」の文化が強い。日本語で訳すと、「美しい姿」や「良い印象」という意味になる。もっと深くいうと、見た目は自分自身や周囲の人々への敬意の表れとされている。ベッラ・フィグーラとは、単にお洒落をするだけでなく、洗練された印象を相手に与えること。この文化は直接教えられるものではなく、成長していく中で自然に身につける。
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▲ 金沢21世紀美術館でもシワなしで自信が出ます。
実はイタリア滞在中、お母さんにも靴下の文句を言われたことがある。黒い靴とジーンズに白い靴下を履いていたら注意された。僕は一応、「白い靴下に見えるかもしれないけど、実は足首の部分にカラフルな模様が付いているよ」と説明したら、「本人が納得しているなら問題ないけど、外から見る人に絶対変だと思われるよ」と文句を言いながら、なぜかエスプレッソを作り出した。
イタリア人が見えないところに力を入れているのは自分のためではなく、周りのためだ。周りからの文句がなければ自信が膨らんでいく。そして、自分のこだわりも少しずつ細かくなってくる。例えば、シャツの生地やアクセサリー、服のサイズ調整、少し変わったデザインでも活かせる能力が生まれる。エレガンスは服装だけでなく立ち居振る舞いにも表れる。
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▲ こんなかわいいイラストが描かれていてもマンマに白い靴下はダメだと言われた。

靴下やパンツ、バスタオルにまでアイロンをかける

日本では考えられないイタリアのこだわりはまだある。非常に厳格でイタリア人ではない人から見ると「意味ある?」と絶対思われるのは、アイロンがけだ。実はイタリアでは、服だけではなく、靴下やパンツ、バスタオルにまでアイロンをかけるんだ!

一時帰国の時に実家で洗濯した後に自分の服を畳もうとすると、お母さんは雷のように「何をするつもり? このままで畳むというのはもしかしたらそのまま着ること? 恥ずかしいから置いといて、アイロンをかけるから」と言ってきた。これは優しさではなく、断ってはいけない命令だ。

日本ではアイロンをかけずにそのまま着るよ、という説明をしても理解してもらえず、「ここはイタリアだからみっともない格好で出かけるとどう思われるか!」と、やっぱり周りの目が気になるらしい。軽くてもいいからアイロンをかける、と言いながらたっぷり時間を使って丁寧にアイロンをかけてくれた。そのあと、シワのない服を見ると同じ服に見えないほど変化があって、着心地も良かった。
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▲ いつも丁寧にアイロンがけをしてくれるマンマと。
日本人もきっと気になる、「なぜイタリア人はすべての服にアイロンをかけるのか?」をお母さんに聞いてみた。

まずは、シワのある服はだらしなく見えるからどんなに素敵な服でも、シワがあると印象が台無しになる。自己管理の一環なんだ。服装は自己表現の一部であり、手入れが行き届いていることが重要視される。そして、上質な素材は手入れが必要。リネン、コットン、ウールなどの天然素材は、アイロンをかけることで美しいシルエットを保つ。

こだわり自体が人生を楽しむ元になる

そして、イタリア流のエレガンスは、単なるファッションではなく、ライフスタイルそのものなんだ! シャワーを浴びる、ヘルシーな食事を摂る、運動するなどのライフスタイルのひとつに、「エレガントなファッションを心掛ける」も含まれている。「元気」「自信」「人生のいいバランス」が自然に生まれる。アイロンをかけることで服に馴染みが出る。ただ服を着るのではなく、ファッションで人生を楽しむんだ! この「楽しむ」ところで、イタリア人は自分へのこだわりを育てている。
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▲ 家で使っているアイロンはこんなのだ。
服装にこだわりがあるイタリア人は、時間を無駄にしているのではなく、そのこだわり自体が人生を楽しむ元になる。服にアイロンをかけるお母さんを見て、その大切さが服に伝わったと感じる。着た時に自分の体にフィットして、手間をかけてくれたお母さんに感謝する。イタリアでは大きなアイロンを使ってアイロンをかけるけど、日本では気楽にアイロンがけができる新型のやり方もあることを体験して、ますます目が覚めた。

そこまでこだわらなくても……と思われがちな、「白い靴下を履かない」「シワを許さない」「見えないところまでアイロンをかける」といったイタリア人の行動。ここから、イタリアのお洒落さとDolce vita(甘い生活)が現れてくる。読者に忘れないで欲しいのは、シワを消すのは自分のためではなく、相手とファッションへのリスペクトからなのだ。
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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