2025.04.11
【第20回】
イタリア人はなぜすべての服にアイロンをかけないと気が済まないのか?
イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。
- CREDIT :
文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)
イタリア人のこだわりお洒落は誰のため?

いつもエレガントでいる理由には文化的、歴史的、社会的な要素が関係しているのだ。では、なぜイタリア人はスタイルに敏感なのか、その秘密を探るとともにイタリア流のエレガンスの特徴について見ていこう。

イタリア人は白い靴下を履かない
長ズボンであろうとショートパンツやバミューダパンツであろうと、何と組み合わせるかは関係なく、とにかくメンズファッションにおいて白い靴下は常に避けるべきだというのがイタリア人の考え方。
日本ではあまり聞かないと思うけど、イタリアでは「ベッラ・フィグーラ(Bella Figura)」の文化が強い。日本語で訳すと、「美しい姿」や「良い印象」という意味になる。もっと深くいうと、見た目は自分自身や周囲の人々への敬意の表れとされている。ベッラ・フィグーラとは、単にお洒落をするだけでなく、洗練された印象を相手に与えること。この文化は直接教えられるものではなく、成長していく中で自然に身につける。


靴下やパンツ、バスタオルにまでアイロンをかける
一時帰国の時に実家で洗濯した後に自分の服を畳もうとすると、お母さんは雷のように「何をするつもり? このままで畳むというのはもしかしたらそのまま着ること? 恥ずかしいから置いといて、アイロンをかけるから」と言ってきた。これは優しさではなく、断ってはいけない命令だ。
日本ではアイロンをかけずにそのまま着るよ、という説明をしても理解してもらえず、「ここはイタリアだからみっともない格好で出かけるとどう思われるか!」と、やっぱり周りの目が気になるらしい。軽くてもいいからアイロンをかける、と言いながらたっぷり時間を使って丁寧にアイロンをかけてくれた。そのあと、シワのない服を見ると同じ服に見えないほど変化があって、着心地も良かった。

まずは、シワのある服はだらしなく見えるからどんなに素敵な服でも、シワがあると印象が台無しになる。自己管理の一環なんだ。服装は自己表現の一部であり、手入れが行き届いていることが重要視される。そして、上質な素材は手入れが必要。リネン、コットン、ウールなどの天然素材は、アイロンをかけることで美しいシルエットを保つ。
こだわり自体が人生を楽しむ元になる

そこまでこだわらなくても……と思われがちな、「白い靴下を履かない」「シワを許さない」「見えないところまでアイロンをかける」といったイタリア人の行動。ここから、イタリアのお洒落さとDolce vita(甘い生活)が現れてくる。読者に忘れないで欲しいのは、シワを消すのは自分のためではなく、相手とファッションへのリスペクトからなのだ。

● マッシ
本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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