2022.05.28
世界一の富豪「イーロン・マスク」の宇宙開発はNASAよりスゴかった!
Twitter買収でも話題のイーロン・マスクが注力する宇宙開発事業を追ったNetflixドキュメンタリー映画「リターン・トゥ・スペース」に注目です。「宇宙船を軌道に乗せ、無事に地球に帰還させたのは、アメリカ、ロシア、中国とイーロン・マスクのみ」!
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文/長谷川朋子(コラムニスト)
そして、火星移住計画を本気で進める先駆者でもあるのです。彼が力を注ぐ宇宙開発事業の軌跡を追ったNetflixドキュメンタリー映画「リターン・トゥ・スペース」から、さらに新たな一面が見えてきます。

宇宙史の歴史的瞬間と世界一の富豪に密着
「宇宙への帰還」を意味する「リターン・トゥ・スペース」というタイトル以上でも以下でもない展開が続きますが、宇宙ビジネスの世界がわかる作品であると同時に、イーロン・マスク密着ドキュメンタリーとして楽しめます。冒頭から宇宙ビジネスを巡る彼自身の物語であることがわかります。
「地球は人類の“ゆりかご”だが、永遠には住めない。今こそ前へ進み、星空の中で羽ばたき、人類の意識の範囲を広げる時だ」と、語るマスク氏。
彼のこの言葉に共感して宇宙へのロマンを感じる人もいるでしょう。一方で、彼の強かな宣伝文句のように感じる人もいそうです。見る人によって受け止め方が大きく分かれそうですが、「夢」と「カネ」の両方をちらつかせる彼の野望には興味がそそられます。
宇宙ビジネス新時代を作る男
余談ですが、このロケット開発に投じた額と比べると、約5.6兆円と言われるTwitterへの買収提示価格はお買い得感さえあります。
いずれも桁違いの金銭感覚を持つ富豪は、夢が現実に近づいた瞬間に人間臭い面も見せています。管制室で思わず「良かった。神に感謝だ。いや、(感謝するのは)誰にでもいい」と声を漏らして喜ぶ姿がまさにそう。本音が聞けるのは密着ドキュメンタリーの醍醐味です。
本作はイーロン・マスク肝煎りプロジェクトが宇宙ビジネスを一変させたことを大絶賛している場面も多いです。「宇宙飛行史で宇宙船を軌道に乗せ、無事に地球に帰還させた団体はわずか4つ。アメリカ、ロシア、中国とイーロン・マスクのみ」と紹介し、彼の偉業を最大限に讃えています。

さらに「宇宙飛行士になるにはロシア語が必要」というNASA関係者が語る言葉を拾って、アメリカの国家事業の限界を煽っています。そして、2011年のスペースシャトル以来、アメリカの有人宇宙船の打ち上げは停滞し、NASAの計画は終了してしまうも、イーロン・マスクという救世主の登場によって官民が手を組む美談として語られています。
実際に未開拓市場と言われていた宇宙ビジネスを一気に広げ、2020年に世界初の民間宇宙飛行を成功させたことの彼の影響力は大きいのかもしれません。その後について、本作では扱われていませんが、ZOZO創業者の前澤友作氏ら次々と民間人の宇宙旅行が実現している事実からも想像しやすいものです。
「打ち上げ費用は10分の1になった」
つまり、「1人1億ドルを掛けた費用」に注目した点です。

その副産物として、火炎放射器を500ドルで売るマスク氏の発想は凡人には理解しにくいものではありますが、宇宙映画のような世界を夢見る気持ちはわからなくはありません。スタンリー・キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』など、人それぞれが思い描く宇宙空間が現実化しつつあることを期待させてくれます。
後半はまさに宇宙が舞台となります。NASA熟練の宇宙飛行士、ボブ・ベンケンとダグ・ハーリー、そして彼らの家族にもフォーカスし、打ち上げに向けて過ごす日々から国際宇宙ステーションへの飛行、そして無事の地球帰還までカメラが追います。
地上の管制室でスペースXチームとマスク氏が緊張しながら見守る様子も漏れなく映し出されています。なかでも、成功を祈願して「願掛けアイテム」にまで頼るエピソードは微笑ましいものです。マスク氏も“とあるもの”を用意しています。チーム一丸が求められる場面で彼も意外と協調性があることを知らされます。

制作したエリザベス・チャイ・ヴァサルヘリィとジミー・チンの2人の監督はドキュメンタリー映画「フリーソロ」でアカデミー賞を受賞したことのある実力派ですが、宇宙とマスク氏の掛け合わせで、うっかり魅了されてしまったのかもしれません。
イーロン・マスク主役の新作も
「地球上で最も影響力のある人物の1人であるイーロン・マスクにじっくり迫るドキュメンタリー」だそうです。公式番組情報には「イーロン・マスクの未来への影響力は驚異的であり、その影響力は世界中のさまざまな技術に及んでいる。彼の好き嫌いにかかわらず、彼の行動が生活にも影響を及ぼしていることがわかる作品」と説明があります。
南アフリカ生まれの起業家の表向きの姿だけでなく、周りに対して強引な行動や人種差別の疑惑もある彼の負の要素にも切り込むことに期待が持てます。「イーロン・マスクはいったい何者か?」と、彼に向けられた問いはまだまだ尽きそうにありません。
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