2024.09.21
菅田将暉「この映画が自分にとって“やらなければいけない”作品である理由」
黒沢 清監督とタッグを組んだ主演映画『Cloud クラウド』(9月27日公開)が「第97回米国アカデミー賞」の「国際長編映画賞」日本代表作品に決定。俳優として、アーティストとして乗りに乗っている菅田将暉さんにお話をうかがいました。
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文/浜野雪江 写真/グレイ・ジェームズ スタイリング/KEITA IZUKA ヘアメイク/AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)
編集/森本 泉(Web LEON)
『Cloud クラウド』は来年3月に米国で授賞式が開催される「第97回アカデミー賞」の「国際長編映画賞」日本代表作品にも決定。いやが上にも期待が高まる作品の話に加え、30代を迎えて“年齢を感じた瞬間”や、自身が思うカッコいい大人像について伺いました。
作品には、自分が“やらなきゃいけないもの”というのがある
── 今や、多くの映像作家や演出家からのラブコールが絶えない菅田さんですが、2009年のデビュー当時、今のような主演オファーがいくつも重なるようなポジションを想像していましたか?
菅田将暉さん(以下、菅田) う~ん……そうなりたいなという夢は見てました。そういう意味では、想像していました。変な言い方ですけど(笑)。
菅田 そんなに自己プロデュースが得意な方でもないとは思うのですが。たぶん、いろんな意識が芽生えたのは、初めての仕事が「仮面ライダーW」だったおかげだと思います。
というのも、「仮面ライダー」は1年という長い時間をかけて撮影するんです。今でこそ、配信ドラマでは撮影期間の長い作品もありますが、大抵は映画で1、2カ月、ドラマでも、大河ドラマや朝ドラでない限り3カ月。そんな中、初めて出演した作品で、1年かけてじっくり役を作れたことは本当に大きくて。
しかも「仮面ライダー」という、自分ももちろん見ていたし、多くの人たちに愛されてきた作品で主役を演じるわけで、“自分もヒーローという仮面を背負える、ふさわしい人間にならないとダメだ”と思わされました。さらに監督からは、「君次第で、この長い仮面ライダーの歴史は終わるかもしれないので、頑張ってください」と言われたんです、当時16歳で(笑)。
菅田 たまったもんじゃないですよね(笑)。仮面ライダーが俺のせいで終わったと言われたら、もう末代までの失態だ! みたいな。だから、ないなりの頭で必死に考えるわけです。自分の見え方についても、そこでかなり考えたのがいい経験になっています。
── その後、2016年は映画だけで9本の出演作が公開されるなど、20代は猛烈な勢いであらゆる作品に挑戦。自ら「修行時代」と語る時期を経て、今はどのように作品を選んでいるのでしょう。
菅田 今も同じように修行の気持ちはあるし、精神的に“一歩一歩上がってる”という感覚は変わってないです。ただ、今までのように全部には時間をかけられない。
お話をいただく作品には、自分が「面白いな」と思うものとは別に、“やらなきゃいけないもの”というのがあると思っているんです。だからまずはそれをやる。そして次に、自分が「面白い」と思えるものをやる。それだけで、時間はいっぱいになっちゃう感じです。
菅田 『Cloud クラウド』のお話が来た時は、まさにそう思いました。もちろん、黒沢組に出たかったし、脚本もすごく面白いのですが、それとは別に、そう感じた理由があって。僕は19歳の時、「これはやらなきゃ!」と思ってオーディションを受けたのが、青山真治監督の『共喰い』という映画なんです。
── 濃厚な血の因縁と性が描かれた作品ですね。菅田さんは、この作品への出演と現場で過ごした時間が、俳優としての転機になったと過去のインタビューで語られています。
菅田 その後、青山監督とは、僕が30歳になる手前の29歳ぐらいの時に1本映画を一緒にやろうと前々から話してて、実はその企画が少し動き始めてたんです。でもそんな中で、青山監督が亡くなってしまって……。
青山さんと20代最後の映画を撮るために、自分は20代の間ずっと修行してたのに、おい、ふざけんな、できねえじゃねえか! と思いながら青山さんのお葬式に行って……。これからどうしよう、と思っていたところに今回のオファーが来たんですよ。
僕は青山さんと黒沢さんの深い繋がりも知っているし、黒沢さんと(10年ぶりに)再会して何言目かにはやっぱり青山さんの話題になる。俺も話したかったし、話せる人もなかなかいないし、そこで救われた気持ちにもなって、やっぱりこれはやるべきなんだな、という思いを深めた感じでした。役って不思議で、そういう出会いがいくつもあるんです。
すごいエネルギーとスピードで読み終えてしまえる台本だった
菅田 そもそもこの“サスペンス・スリラー”というジャンルが好みというのもありますが、余計なト書きがなく、人物の動きとセリフだけが羅列していて、すごいエネルギーとスピードで読み終えてしまえる台本だったんです。
台本を読む時は大抵、自分の役をイメージしながら「ここでこういう気持ちなのかな」とか考えながら読むので時間もかかるんです。でも今回はそうじゃなく、読み物としてスパッと読んでしまった感じが新感覚で。ということは、すごく面白いんだな! と思いました。
── それは演じる立場の俳優さんからすると、難しい台本だったりはしないのですか? ただでさえ(主役の)吉井は、何を考えているのかわからないところがありますし。
菅田 疑問を持とうとすればいろいろあるんですけど、現場に行ったらわかることもあるし、吉井の生きざまとして嘘がなく感じられたので、気になりませんでした。例えば、吉井がなぜこんな恐怖にさらされることになったかについても、経緯を見てるとなんとなくわかりますよね。
菅田 理解とまではいかないかもしれないですけど、イメージはできました。ただ、吉井を演じるにあたり、幼少期はこんな家庭で育ち、こういう性格で……という背景なりストーリーを考えたうえでお芝居したほうがいいのか、そういうのもまったくなしがいいのか、黒沢監督はどっちなんだろう? というのは当初迷いました。
たぶんいらないんだろうなとは思いながらも、ご本人に訊くのは野暮な感じがしてならなくて。それで、監督が作品において何を大事にし、何を面白がるのかのキーワードをもらえたらなと思い、撮影前に一度、二人で話す時間をいただいたんです。
そこで何か1本、映画をテーマに話せればなと思って、「今回の作品に関わるものでも、そうでなくてもいいので、監督の好きな映画をインスピレーションで1本挙げてくださったら、僕、観ていきます」と言ったら、アラン・ドロン主演の『太陽がいっぱい』を挙げてくださったんです。
それを見た時に、役のことだけでなく黒沢監督とのやり取りも含めて、「こういう感じでやっていけばいいのか」と察しました。
菅田 作品によりますけど、ガチガチに固める時もあります。ただ、家で準備できることとできないことがあって、セリフを入れることはできるけれど、相手のセリフは相手しか言えないから、それを受けてのリアクションは現場でやってみないとわからない。だから、計画的な部分と、“無計画の余韻”みたいなものを両方持って、現場で対応することが多いです。
── 家でこれだけは必ずやっていく、ということは?
菅田 最低限、セリフを入れることです。「最低限」というのは、セリフも入れすぎない方がいい時もあるので。入れすぎない方がいいなと思う時は入れすぎずに行きますけど、 今回はそういうわけではないのでしっかり入れてました。
あとは、シーンも常に順撮りではないので、前後で何が起こったか、というのだけはちゃんと家で確認しておくぐらいです。
後編に続きます。
● 菅田将暉(すだ・まさき)
1993年生まれ、大阪府出身。2009年『仮面ライダーW』で俳優デビュー。『共喰い』で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞、『あゝ、荒野』で第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など受賞多数。主な主演作は、映画『花束みたいな恋をした』『キャラクター』『キネマの神様』『CUBE 一度入ったら、最後』『百花』、ドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です―」「コントが始まる」「ミステリと言う勿れ」ほか。2017年からは音楽活動を開始。3rdアルバム「SPIN」が発売中。
公式HP/菅田将暉
『Cloud クラウド』
インターネットを経由する“実体のない”サービスを表す『Cloud クラウド』の名を冠した本作は、転売業で日銭を稼ぐ現代の若者を主人公にしたサスペンス・スリラー。「生活を変えたい」という想いから、世間から忌み嫌われる“転売ヤー”としてせっせと働く真面目な悪人・吉(菅田将暉)。彼が知らず知らずのうちにバラまいた憎悪の粒はネット社会の闇を吸って凝結成長し、どす黒い“集団狂気”へとエスカレートしてゆく──。監督・脚本は『岸辺の旅』(2015)で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の監督賞、『スパイの妻』(20)で第77回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞するなど国際的に高く評価される黒沢 清監督。出演はほかに古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝など。本作はヴェネチア国際映画祭正式出品で「第97回アカデミー賞」の「国際長編映画賞」日本代表作品にも決定。
9月27日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
公式サイト/映画『Cloud クラウド』