2024.09.22
菅田将暉「年齢を重ねるのはうれしい。早く老けたいと思ってたので」
黒沢 清監督とタッグを組んだ主演映画『Cloud クラウド』(9月27日公開)が「第97回米国アカデミー賞」の「国際長編映画賞」日本代表作品に決定。俳優として、アーティストとして乗りに乗っている菅田将暉さんにお話をうかがいました。その後編です。
- CREDIT :
文/浜野雪江 写真/グレイ・ジェームズ スタイリング/KEITA IZUKA ヘアメイク/AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)
編集/森本 泉(Web LEON)
すごく不気味な瞬間がたくさんあるから映画全体が不穏に見える
菅田 感情での演出はそんなにされなくて、動きをつけてくださるんですけど、その動きが“いちいちちょっとヘン”なのが面白かったです。例えば、自分の部屋で恋人の秋子(古川琴音)と2人で喋っていて、吉井が愛の告白にも似たセリフを言う場面で、彼はキッチンに立っている秋子の「真後ろ」に立つんです。
これ、ぜひやってみてほしいんですけど、すごく気持ち悪いんです(笑)。人の真後ろに立って喋りかけることって、たぶん人間、ほとんどないと思います。コンビニのレジで並んでる時ぐらいです。
── しかも、そんな大切な告白を……。
菅田 普通だったら横に行って、相手の顔を見ながらでも喋れるし、彼女を振り向かしてでも喋れるし、そもそも今言わなくてもいいし。大事なことなんだから。でも、その状態で言うというのが監督の演出なので。
菅田 たぶんあるんです、画(え)の中での動きとして「今、ここに来て言ってほしい」というのが。で、やるとすごく不気味で、そういう瞬間がたくさんあるから、映画全体が不穏に見えるんです。
菅田 お芝居のことはあまりお話してないですが、雑談はたくさんしました。古川さんは、僕も大好きな役者さんなので、いろんなところでお世話になってるし、相変わらず古川さんにしかない艶っぽさというか、表現というのがあるなって。僕は楽しく一緒にお芝居していた感じです。
菅田 そうなんですよね。意外と秋子に対してはピュアに接してはいるので。だから、(映画の結末とは)違う未来もあったんでしょうね。
── 作品のテーマについてはどう思われますか? “ネットから生まれる集団狂気”というのは、すごく今っぽいテーマのように感じますが。
菅田 そうですよね……でもそれもあまり気にしてなくて、(こういう取材などで)言われて初めて思った感じもありました。ただ、この「クラウド」が持つ言葉の強さみたいなものは、現代的だなと最初に思いました。映画では“不特定多数”という意味で用いてるんですけど。
でも、この映画の仕組みとして面白いなと思ったのが、吉井はなんてことない普通の男で、不特定多数の一人だったのに、最後にある重大な行為をしたことによって「何者か」になってしまい、もう戻れないところに来てしまう。
結果として、吉井は不特定多数の人たちが望んでいた「何者か」になるけれど、彼自身はそういう結末を望んでいなかった感じが興味深いんです。それは吉井を追い詰める他の人たちも同様で、最初はみんな、誰かを傷つけたり自分を追い込むつもりはもちろんないのに、そうなってしまったことによって、吉井にも刃を向けてくる。そういう、よくわからないエネルギーが溜まっている感じは、やはり“今っぽい”のかもしれません。
ネットは、ひっそりしていたからこそ意味があったのかなという感じ
菅田 僕はTikTokが主流になって以降、置いていかれてるなと思うんですけど、ネットのコメント欄などの書き込みもあまり見なくなりました。
やっぱりネットは、ひっそりしていたからこそ意味があったのかなという感じもするんです。みんなが少し罪悪感を持って、隠れてこそこそ本音を言い合っていた時代ぐらいまでがたぶん楽しかったのかなと。
大人にはわからない言葉を子供たちが使うように、暗号のようなものをそこで確かめ合って遊んでいたものが、これだけみんなが使える場所ができて、サブカルでもなくなりカルチャーになってしまうと、本来あった、マイナーからの発信だったからこそ笑えたものが、規模がメジャーになったことによって笑えなくもなってしまうというふうに思います。
だから僕は、公式でTwitter(X)はやってますけど、仕事以外のことはつぶやかないですし、他のSNSも情報収集用でしか使わないから、そこで写真を貼ったり、誰かと繋がることもないです。
菅田 確かに便利なものではあるので、ツールとして手に負える範囲で使えたらいいかなと思ってますけど。ただ、使い方によっては、今回の映画のようなことも容易に起こり得るということですよね。
── 本当にそう思います。仕上がった映画をご覧になって、今までで最も笑ったそうですが、ご自身が出演している映画を、そんなふうに客観的に見られるものですか?
菅田 客観というか、自分が出ていて現場を知っているからこそ笑った感じもありますけど……いや、でも客観的に笑っちゃいました。
── ご自身の出演作を、いつもそのぐらい客観視できるのですか?
菅田 普段はできないです。だから、初めてです。それがなんでできたかっていうと……やっぱり作品が面白かったんだと思います。
菅田 肉体的にはあります。わかりやすくひとつ思ったのは、(あごのあたりを指して)このあたりにニキビができたんです。今までもニキビができることは全然あったし、めっちゃ肌荒れすることもあったんですけど、どれだけ肌が荒れても1カ月もすれば跡形もなく消えてなくなっていたのが、そのニキビだけはひと月、ふた月……あれ? ワンクール超えた、あれ? 半年超えた……あれ!? 1年いるぞ! みたいなやつがいて。
そしたら家で、「いや、それニキビじゃない。吹き出物だよ」と言われた時に、これが30代か、とは思いましたね。ようこそ! っていう。ようこそニキビ……じゃなくようこそ吹き出物、はこの1年半の間にいました。
菅田 うれしいですね。早く老けたいなと思っていたタイプなので。
── では50代や60代になった時にどんな大人になっていたいか、菅田さんが思うカッコいい大人像を教えてください。
菅田 う~ん……なんでしょうね。カッコいいのは、やはり有事の時に落ち着いて行動ができる人だと思います。人生の中でハプニングって絶対あるので、大きな災害とかに限らず、自分が経験していない何かが起きた時、最適解じゃなかったとしても、落ち着いて対応できる人が大人だなと思うし、そこに人としての大きさみたいなものを感じます。
● 菅田将暉(すだ・まさき)
1993年生まれ、大阪府出身。2009年『仮面ライダーW』で俳優デビュー。『共喰い』で第37回日本アカデミー賞新人俳優賞、『あゝ、荒野』で第41回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞など受賞多数。主な主演作は、映画『花束みたいな恋をした』『キャラクター』『キネマの神様』『CUBE 一度入ったら、最後』『百花』、ドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です―」「コントが始まる」「ミステリと言う勿れ」ほか。2017年からは音楽活動を開始。3rdアルバム「SPIN」が発売中。
公式HP/菅田将暉
『Cloud クラウド』
インターネットを経由する“実体のない”サービスを表す『Cloud クラウド』の名を冠した本作は、転売業で日銭を稼ぐ現代の若者を主人公にしたサスペンス・スリラー。「生活を変えたい」という想いから、世間から忌み嫌われる“転売ヤー”としてせっせと働く真面目な悪人・吉(菅田将暉)。彼が知らず知らずのうちにバラまいた憎悪の粒はネット社会の闇を吸って凝結成長し、どす黒い“集団狂気”へとエスカレートしてゆく──。監督・脚本は『岸辺の旅』(2015)で第68回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門の監督賞、『スパイの妻』(20)で第77回ヴェネツィア国際映画祭銀獅子賞を受賞するなど国際的に高く評価される黒沢 清監督。出演はほかに古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、窪田正孝など。本作はヴェネチア国際映画祭正式出品で「第97回アカデミー賞」の「国際長編映画賞」日本代表作品にも決定。
9月27日(金)TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー
公式サイト/映画『Cloud クラウド』