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2024.09.24

愛すべきマイペース、寛一郎「もうこの仕事、やりたくないと思ったことは何度もあります」

近年いくつもの話題作に出演し注目度が急増する俳優の寛一郎さんが、江戸時代前期の北海道を舞台に、アイヌと和人の歴史を描いた映画『シサム』に主演しています。そこにいるだけで独特の存在感と色気を纏った寛一郎さんの意外な素顔とは?

CREDIT :

文/長谷川あや 写真/玉井美世子 スタイリング/坂上真一様 (白山事務所) ヘアメイク/AMANO 編集/森本 泉(Web LEON)

寛一郎 WebLEON シサム
2017年に俳優としてデビューして以来、ドラマ『グランメゾン東京』、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などさまざまな話題作に出演している寛一郎さん。現在は、江戸時代前期の北海道を舞台にアイヌと和人の歴史を描いた主演映画『シサム』が公開中です。デビューしてもうすぐ8年。寛一郎さんが俳優という仕事をどう考えているか、体当たりで挑んだ『シサム』のことなどを、じっくり言葉を探しながら語ってくれました。
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俳優になると言ったら、「まあ、そうか」、以上です(笑)

── インタビュー記事を拝見させていただきましたが、18歳の時に俳優になる決意をされたとか。もともと俳優という職業は視野にあったのでしょうか。

寛一郎さん(以下、敬称略) はい、父親の職業ということもあり、いちばん身近な職業でした。映画もよく観ていたし、撮影の現場にも連れて行ってもらったりしていたので。

── 「自分も俳優になる!」と決意したきっかけは?

寛一郎 きっかけかぁ。誰かに何かを言われたとか、とくに大きな出来事があったわけではないんです。思春期を経て、将来を考え始めた時期で、そんななかでそういう決断をしました。すみません、あの気持ちを表現するのが難しくて。ただ、父親に「俳優になる」と伝えるのにはやはり勇気が必要でしたね。

── ある記事で読みました。寛一郎さんがお父様に俳優になると言ったら、「まあ、そうか」とひと言だけ返ってきて、それはかつて佐藤浩市さんが三國さんに俳優になると伝えた時と同じ反応だったと!

寛一郎 そうです、「まあ、そうか」、以上です(笑)。
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── 佐藤さん、狙ったのでしょうか……?

寛一郎 時間が経ってますます思うのですが、オヤジと三國さん、同じ反応が出てくるわけないですって(笑)。といっても、やはり印象に残るワンシーンではありましたね。

── デビューしてもうすぐ8年。俳優という職業は、自分に合っていると感じますか?

寛一郎 ……合っているなと思ったことはあまりないかもしれません。正直、自分が表に立つのはあまり得意ではないんです。でも、もちろん演じていて楽しいし、合っている部分もあります。歯切れが悪いですね(笑)。
俳優って、いろいろなタイプの方がいらっしゃいますが、僕は、自分の興味のあること、知りたいことを、演じることを通して追求していきたいと思っています。

俳優としてというより、人としてという部分のほうが大きいかもしれません。だからといって、自分の興味をかきたてる作品だけをやりたいわけじゃなくて、出演をきっかけに自分の知識欲を刺激してくれるような作品と出会って、作品を観る方に、その魅力を媒介になって伝えていきたいという気持ちが強いです。今回、主演させていただいた『シサム』でも、アイヌ文化について学ぶことができました。
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アイヌについての映画を残すことができるのはとても素敵なこと

── 『シサム』では、江戸時代前期に、当時、「蝦夷地」と呼ばれた現在の北海道を領有した松前藩の若き武士・孝二郎を演じています。アイヌと交流し、異なる文化や風習に触れることで、アイヌの持つ精神や理念に共鳴してゆく難しい役柄ですが、オファーを受けた時の印象は?

寛一郎 もともとアイヌに対して興味はあったんです。というのも、小学生くらいの時に、アイヌのとある集落に2週間くらい訪れたことがあって縁だなあと感じました。

アイヌについて、よくご存知の方もいるでしょうし、まったく知らない人もいるでしょう。そんななか、日本の文化を語るうえで欠くことができないアイヌについての映画を残すことができるのは、それはとても素敵なことだと思っています。

── 40日ほど、北海道の白糠町で撮影していたと聞いています。大変だったのでは?

寛一郎 「大変だったでしょう?」と言っていただくことが多いのですが、過ごしやすい気候で食べ物も美味しくて(笑)。空気もいいし、いい環境でのびのびと撮影させてもらいました。
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── 役作りはいかがでした? アイヌの文化を知ることで、自分の価値観が変わっていく若き武士を演じるにあたり大切にしたことはありますか。

寛一郎 そうですね、僕は時代劇に出演させてもらうことが多く、そんななか最近、よく考えることがあるんです。今回の『シサム』もそうですが、時代劇に出演する時は、当然ながら歴史的な背景を学びます。でも、その映画を作るのも、その映画を観るのも、その時代の人ではなく、今日を生きている人ですよね。

その場合、必ず史実との衝突があり、史実そのままに作ってもエンタテインメントとして成り立ちません。『シサム』でいうと、僕が演じた孝二郎は、アイヌの人に助けられたことで、アイヌとの交流を深め、価値観を変えていくわけですが、あの時代の武士なら助けられる前に切腹しているのかなとも思うんです。

だから歴史的事実をしっかり学び、最大限のリスペクトを払いつつ、今日の価値観をベースに作るなど、現代社会とリンクさせる必要があります。本作に限ったことではありませんが、そのギャップを、いかに自然に、違和感なく表現するかを大切にしています。
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以前は人を受け入れるのがあまり得意ではなかった

── そこまで考えて演じた孝二郎が、いよいよ公開となりますが、『シサム』で孝二郎という役柄を演じたことで、新たな気づきや変化はありました?

寛一郎 たくさんあります! 歴史的背景がそうさせるのかもしれませんが、アイヌの人たちって、他者を受け入れる間口が広いんです。それに、自然と共存してきたという背景もあります。僕はもともと排他的──というと少し大げさかもしれませんが、人を受け入れるのがあまり得意ではなくて。この仕事をするようになって、いろいろな方と出会い、仕事をさせていただくなかで、だんだんと克服できているのですが、この作品に出演させてもらったことで、人としての間口が広がったような気がします。

── 「排他的」という部分、もう少し突っ込んでもいいですか(笑)。

寛一郎 思春期から20歳になるくらいまで、とにかく人と話したくない、なんかムカつくなという感情は常にありました。いや、ムカつくというのも違うかな。自分を抑え込んでいるから何も感じないというか……、怒ることもないし、悲しむことも、心から楽しめることもなくて。今、考えると、すべて自分への自信のなさゆえだったと思います。
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── どうやって克服したんですか。このお仕事をしながら……?

寛一郎 いろいろな経験を経て、いろいろな視点から物事を見ることができるようになってきました。今回のように、主演をさせていただけることも大きいです。やるしかないというか、お芝居って、ある程度の共感性が表現できないと、見ている人には伝わらないと思うんです。そんな“感じる心”を大事にするようになったからかなあ。まああまり無理せず、自然体でいたいとは思っています。

── デビューから8年──。主演の機会も増えていますが、今のご自分の姿は、デビューした頃、想像していました?

寛一郎 実際にデビューしてみて、自分が思い描いていたことと、異なる現実もありました。「辞める」ほどではなくても、「もうこの仕事、やりたくない」と思ったことは何度もあります。それは自分の立ち位置的なものではなく、ものづくりの厳しい現実にぶち当たってというか、上手に表現できなくてすみません。ただ、先ほどお伝えしたように、「間口が広くなった」ことで、仕事がしやすくなったという実感はあります。それは、周囲が変わったのではなく、自分が変わったからだと思っています。
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知性と童心の両方をバランスよく持っている人は素敵だと思う

── 「やりたくない」と思ったことは何度もあるなか、続けてきた理由はなんでしょう?

寛一郎 (しばらく間)。いや、役者以外の仕事は考えられないというわけじゃないんです。俳優を辞めて、別の仕事を始めることも可能だとは思うのですが、それが本当に僕なのかなって考えてしまって。役者という職業を言い訳に生きている感じがします、今。

── 老婆心ながら、以前は、「心から楽しめること」がなかったと話されていましたが、今は何か楽しいこと、あります?

寛一郎 う~ん、なんですかねえ……。

──  ……ないですか?

寛一郎 (笑)。サウナはよく行きますね。あと寝ることと散歩が好きですね。

── 散歩は景色を楽しみながら……?

寛一郎 景色はねぇ、必要ないんです。考えながら歩くのが好きなんです。歩いているうちに、頭が働いてくるんです、僕の場合。歩いていると想像も広がっていくので、考えごとに適しています。だから景色はあまり見ていないんですよ(笑)。といっても、ランニングマシンを歩くのはダメで、やはり外を歩きたい。わかってもらえます、この感覚?
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── なんとなくわかります(笑)。サウナは定期的に行っているんですか。

寛一郎 そうですね、サウナは、散歩とは逆で頭を空っぽにするために行っています。

── 最後に、Web LEONのインタビューでいつも聞いている質問を。寛一郎さんにとって、カッコいい大人とは?

寛一郎 え、それ、僕が聞きたいですよ! ここにいる皆さんに。後で、それぞれ答えてもらっていいですか(笑)。僕の場合、そうだなぁ、知性と童心の両方をバランスよく持っている人は、素敵だなと思います。
── 具体的にイメージされる方はいますか?

寛一郎 あまりいないんですよ……。知性のある男性って、やはり素敵ですよね。それに、知性って年齢を重ねていくうえで、積み重ねていかなければならないことのひとつだと僕は考えていて。でもロジカルばっかり話されても面白くないじゃないですか。きちんと物事がわかっているけれど、子どものような純粋さを持ち合わせている人がカッコいいと思うのですが、そういう人、あまりいなくないですか? いたらぜひ教えてください(笑)。

── 私たちから見ると、「家にあんな素敵なお父さんがいるんだ、すごいな」と、単純に思ってしまいますが(笑)。

寛一郎 父のカッコいいところはもちろんたくさん知っています。尊敬できる部分もあります。でもその分、ダメなところもたくさん見ているんで(笑)。だって、父親ですから。
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寛一郎(かんいちろう)

1996年8月16日、東京都出身。2017年に公開された映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で俳優デビューを果たし、同年、『心が叫びたがってるんだ。』で映画初主演。翌2018年の『菊とギロチン』ではキネマ旬報ベスト・テン新人男優賞など多数受賞する。2022年には NHK 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で源実朝を暗殺する公暁役を演じた。最近は、『ナミビアの砂漠』が公開されたばかり。また、年内(冬)には、TBS SPドラマ『グランメゾン東京』と、映画『グランメゾン・パリ』の公開が控えるほか、主演を努めた、米・スカイバウンド✕フジテレビ共同制作ドラマ『HEART ATTACK』が24年秋以降配信予定。

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『シサム』

江戸時代を舞台に、アイヌと和人(大和民族)の交流を描いた歴史スペクタクル。江戸時代前期、アイヌとの交易品を収入源にしている松前藩藩士の孝二郎(寛一郎)は、兄・栄之助(三浦貴大)と交易品を他藩に売る仕事をしていた。しかし、栄之助は、ある夜、使用人の善助(和田正人)の不審な行動に気づき殺害される。兄の敵討ちを決意した孝二郎は、善助を追って蝦夷地へ渡り、異なる文化や風習に触れることで、アイヌの持つ精神や理念に共鳴してゆく。撮影は、町全体がイオル(アイヌの伝統的生活空間)という考えのもと、アイヌと和人が共生してきたという認識を持つ北海道白糠町の協力により、同町で多くの場面が撮影された。監督/中尾浩之、脚本/尾崎将也。出演はほかに、坂東龍汰、平野貴大、サヘル・ローズ、古川琴音、富田靖子、緒形直人、要潤など。配給/NAKACHIKA PICTURES PG12 ©映画「シサム」製作委員会
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国にて公開中。
公式サイト/https://sisam-movie.jp/

※『シサム』の「ム」は小文字が正式表記

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