2024.12.07
野村周平「ひとりで過ごす時間が豊かになって、歳をとるのが楽しみになってきた」
草彅剛さん主演の舞台『ヴェニスの商人』(12月6日〜)にバサーニオ役で出演する野村周平さん。初めてのシェイクスピア劇に挑む心境と野村さんが目指す理想の大人像についてお話を伺いました。
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文/安井桃子 写真/平郡政宏 スタイリング/清水奈緒美 ヘアメイク/須賀瞳 編集/森本 泉Web LEON)
改めて王道を知りたい、そう思うようになっていた
野村周平さん(以下、野村) 映像作品だと、見てくれた人に後日感想を聞いてやっと反応がわかるけれど、舞台だとそれがダイレクトに伝わってくる。あ、ここで笑うんだとか、演じているその場でわかるのは、やっぱり面白いです。反応があれば、こちらもさらに感情をお客さんにぶつけられるし、そのやりとりは舞台ならではですよね。
── 観る方も役者さん本人を前にしているわけで、観劇はやはり特別な体験です。
野村 そう思ってもらえたらやっぱりうれしいです。舞台って緊張感がものすごくある場所だから、リラックスしてというより、お洒落してカッコつけて来てもらえたらやっぱりいいかな。
野村 最近、改めて王道を知りたい、そう思うようになっていたんです。ジャズなど昔から愛され続けている音楽を聴くようになり、日本の古い小説も読み始めた。そうすると歴史にも興味が出てきて、ああ、自分は日本人なのに日本の歴史を全然知らなかったんだなぁと、やっとそういうことがわかってきて。そんなふうに自分なりに文化について考えはじめた時に、今回のお話をいただいて、「え、シェイクスピアとか、それめちゃくちゃカッコいいじゃん!」と飛びつきました(笑)。
昔は、シェイクスピア作品ってなんだか難しそうで、避けていた部分もありました。やらず嫌いだったのかな。もちろんやってみれば決して簡単ではないのだけれど、どうお客さんにスムーズに伝えられるか、そこを今は考えて稽古しているところです。
強がらない、カッコつけない。早めに恥ずかしいところを見せておく
野村 ええ。確かに現代の言葉では言わないような台詞が多くあります。そもそも読めない字もいっぱいあって、辞書を引きながら。どうしてもわからなければ演出家の森新太郎さんに聞いて、翻訳の松岡和子さんもいてくださることもありますし、稽古の場のどこかに答えはあるのでそれを見つけながらですね。
やっぱりカッコいいじゃないですか、「今、俺シェイクスピアやってるんだけど、観にくる?」なんて言えるのが。馬鹿そうなのに博識っていうキャラを、僕は狙っていますから(笑)。
野村 早めに恥ずかしいところを見せておく。特に舞台だと長い期間ずっと一緒に過ごすことになりますよね。最初に強がったり人見知りしたりすると、お互いずっと緊張したまま時間が経ってしまう。それだとなかなかいい芝居はできないと思います。だから今回も「もう俺、シェイクスピアとかよくわからん!」って最初に言っちゃいました。そうすることで教えてくれる人もいるし、同じように感じていた人も安心できるはず。強がらない、カッコつけない。そこは意識していますね。
野村 俺はいつでもウエルカムだよって雰囲気を出しつつ、話しかけてくれるのを待つ感じでしょうか。話したいタイミングって相手によって違うだろうし、自分からはガンガンいきません。でも最初に「俺のこと、アメリカ人だと思って接してもらっていいから」みたいな雰囲気は出すようにしているし、それは年下年上関係ないかも。あ、でも仕事場での人生相談は受け付けません! そこは本当に仲良くなった人だけ、仕事仲間にいい加減なこと言えませんから。
野村 バイクとか、ヴィンテージファッションとか、草彅さんとはすごく趣味が合うんです。この前も僕が着ていたパーカを「それいいね」ってずっと言ってくださって、ちょっと僕が脱いだ隙に、いつの間にか着ていました。「ごめん、ちょっと着ちゃった、これサイズいくつ?」「いや、別にいいですけど、このサイズは……」っていうやりとりが。というか、普通勝手に着ませんよね!?(笑) 草彅さん以外だったらえっ!? って思うけど、草彅さんだからいい(笑)。それはヴィンテージ風の普通のパーカなんですけど、その数日後には僕と色違いを買って持ってきて「これ、ノムちゃんパーカって呼んでいるの」っておっしゃっていました。草彅さん、ほんとに素敵です。
普通でいることを大事にしたいし、その普通の水準もどんどん上げていきたい
野村 短気は大人になってちょっとおさまってきたかも。20代の頃は夜中飲み歩いたりクラブ行ったりなんて遊び方もしていましたが、もうそれはいいやって。それよりもひとりでキャンプへ行ったり、自然の中で遊んだり。または家で映画を観たり小説を読んだりしたい。そういうひとりで過ごす時間が豊かになってくると、周りにも前よりは優しくできるようになった気がします。
野村 僕、最近歳をとるのが楽しみになってきたんですよ。周りには年上の40代から80代まで、カッコいい大人の男友達がいて、そういう人たちを見ていると、歳をとるのって悪くないじゃん、どんどんカッコよくなれるんじゃんって。80代の友達は、向こうからしたら僕なんて孫みたいなもの。でも一緒にいるとすごいキラキラして、好きなことやっているんですよ。それってすごくいいなって。
野村 その人みたいに、趣味があって、いろんな知識もあって、そういう大人はやっぱりカッコいい。好きなことをずっと好きでキラキラしている、子供の心を持った大人になりたいですね。そのために今いっぱい映画を観たり、小説を読んだりして、知識を蓄えているところです。僕はバイクが好きなんですが、例えばハーレーから降りてきて、おもむろにポケットから文庫本出して読み始めるとか、むっちゃカッコよくないですか!?(笑) ゴリゴリのアメリカンヴィンテージファッションに身を包んで「君は芥川をどう思う?」とか、聞いてくるの、いいですよね!? だから僕は最近、代々木公園までバイクで行って、人の多いところで降りてわざと文庫本読んでいます(笑)。あとはね、やっぱりダサいことしない大人になりたい。
野村 嘘をつくこと。あとは僕らのような仕事は、プライベートの時間もどうしても見られていますよね。見られているのがわかっているなら、酔っ払って暴言吐くとかカッコ悪いことはできないし、したくない。困っている人は助けたいし、おじいちゃんおばあちゃんには優しくしたい。自然とそういうことができる人になりたいです。そういうシーンは週刊誌って全然撮ってくれないんですけど(笑)。
そもそも「困っている人助けて偉いね」とか、「小説たくさん読んでいてすごいね」なんて言われたとしても、それって全然普通のことですよね? 人助けと本を読むことがすごいってどれだけレベルが低いのよって思っちゃう。「役作りしてすごいですね」とかも、当たり前でしょう!? 役者なんだから。普通だから。普通でいることを大事にしたいし、その普通の水準もどんどん上げていきたいです。
野村 2019年にアメリカ留学をして、そのすぐあとにコロナ禍になって。今までやっていたような遊びができなくなって、「あれ? 遊ばなくていいじゃん」って気がついたことは大きいですね。そこから大人になることを意識し始めた。飲みに行くのにいちいち誰か誘わなくても、ひとりでも全然いいんだってわかったし。
野村 この舞台の稽古が始まる前に少しお休みをとって、アメリカに行っていたんです。ロサンゼルスからレンタカーしてロードトリップ、最終的にアラスカまで! しんどかったけど、見える景色は最高だった。ずっと先まで地平線が続いていたり、一本道の先に雪山が見えたり。そういう風景を見ずに、死ねないなって思いました。だから、人生に絶望したとかそんなこと言っている人がいるなら、なんでもいいから金をかき集めて、いくつからでもいいからとりあえず、旅に出なよって言いたい。僕も、まだまだ旅に出て、見たことのない景色をたくさん見たいですね。
● 野村周平(のむらしゅうへい)
1993年11月14日生まれ。2010年俳優デビュー。’12年NHK連続テレビ小説「梅ちゃん先生」で脚光を浴びる。’14年『日々ロック』で映画初主演。その後、映画『ALIVEHOON アライブフーン』、『そして僕は途方に暮れる』『隣人X -疑惑の彼女-』、『サイレントラブ』などに出演。現在『十一人の賊軍』が公開中。BMX(バイシクルモトクロス)やスケートボードなど、ストリートカルチャーにも精通。中国語も習得している。
『ヴェニスの商人』
高利貸しのシャイロックから、親友のために自分の肉を担保に金を借りる高潔な商人。深い人物描写と痛快な展開で時代を超えて愛されるウィリアム・シェクイスピアの傑作を、第21回読売演劇大賞・最優秀演出家賞受賞の森新太郎が、草彅剛主演で演出。
演出/森新太郎 出演/草彅剛、野村周平、佐久間由衣、大鶴佐助、長井短、華優希、小澤竜心、忍成修吾ほか 製作/TBS・CULEN 東京公演12月6日〜22日、京都公演12月26日〜29日、愛知公演2025年1月6日〜10日 HP/舞台「ヴェニスの商人」公式サイト