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2023.07.06

【オーストラリア・ノーザンテリトリーへの旅 後編】

未開の大自然+人より多いクロコダイル! オーストラリアの秘境・カカドゥを旅した

雄大な自然を誇るオーストラリアの中でも、ノーザンテリトリーは神秘的な魅力に溢れる土地。周りとはちょっと違う、冒険をしたい人におすすめの旅先であります。そんなノーザンテリトリーを2回に分けてご紹介。後編では美しき秘境、カカドゥを中心にご紹介します。

CREDIT :

文・写真/大石智子

オーストラリアの秘境・カカドゥ

野生のクロコダイルに出会うクルーズに乗船

前編(こちら)でご紹介したティウィ諸島をあとにして、向かうはユネスコの世界複合遺産に指定されているカカドゥ国立公園。そこは州都ダーウィンから東へ約250km、なんと四国4県よりも広い国立公園であります。謎エリアと思いますが、現地に「AAT kings」というツアー会社があり、日本人ガイドも常駐。まずはどう巡るかこちらに相談するのが賢明です。

ところでノーザンテリトリーからの帰国後、旅好きな人たちと会った時のこと。「やっぱり田舎はいい」という話になり、ノーザンテリトリーのことを言わずにいられなかった。間違いなく、人生のなかで一番の田舎、もとい大自然でしたから。「道がない! 人がいない! すぐワニに会う!」と熱弁してしまったのです。

しかし、そう言われても何のことやら。ちょうどNetflixでノーザンテリトリーを舞台にしたリアリティ番組「ワイルド・クロック・テリトリー」を配信中で、この番組が彼の地を知るのに分かりやすい。
主人公のマット・ライトは家畜を襲うワニを捕獲し、危害にならない場所へ移動させるワニの引越し屋。でも駆除ではなく、あくまで移動させるというのがオーストラリアらしい。マットの世界はハード過ぎますが、観光客が野生のソルトウォータークロコダイルを安全かつ間近に見る手段があります。それが、カカドゥ国立公園での「イエローウォータークルーズ」。巨大な湿地帯を進む船の上から、クロコダイルや野鳥、野生の牛や豚に出会うことができるのです。
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船が進むのはイエローウォータービラボンという湿地帯。食糧をあさる水牛によって水がかき混ぜられて濁ることからイエローウォーターと呼ばれます。ビラボンとは先住民の言葉で大きな水たまりの意味。
▲ 船が進むのはイエローウォータービラボンという湿地帯。ビラボンとは先住民の言葉で大きな水たまりの意味。
朝便ならサンライズクルーズともなります。
▲ 朝便ならサンライズクルーズともなります。
まずは日の出前に船へ乗り込み、湖沼から昇る朝陽を拝む。船には専門ガイドが同乗し、イエローウォータービラボンに生きる動物たちについて教えてくれます。私が乗った船の担当はギャグが多めでした。

この湿地帯を代表する野鳥といえばカササギガンですが、「雄には奥さんがふたりいてね、雄の頭がたんこぶみたいに膨らんでいるのはヤキモチをやいた方の奥さんに殴られているからなんだ」と、生態を絡めつつ調子のいいトークを挟みます。
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トップエンド(最北部)に生息するワニは15万匹で首都ダーウィンを除けば人間より多い。
▲ トップエンド(最北部)に生息するクロコダイルは15万匹で首都ダーウィンを除けば人間より多い。
もちろん、ワニトークも絶好調。

「クロコダイルとアリゲーターの違いは口がUかVか(クロコダイルがU)」
「ワニが噛む力は動物最強。大きなワニだとその圧力は2トンにもなるよ」
「噛むことに体力を使う分、食事は省エネ。大魚を食べる時は一度噛んでから離れ、魚がもがき死んだ頃に戻ってきて食べるんだ」
「ワニは意外と少食。鶏一匹で1カ月はもつ。餌がなくても何カ月も生きられるよ」
「長くて100年以上生きるワニの年齢は背骨の年輪で分かる。でも、その年輪を見るためには死んだワニを輪切りにしないといけないけどね」
干上がった沼ではぷっくりしたお腹もよく見える。
▲ 干上がった沼ではぷっくりしたお腹もよく見える。
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渡豪した4月は雨季だったため水嵩が十分にあり、船のすぐ隣を泳ぐクロコダイルを6匹ほど見かけました。お尻をふりふりしながら気まぐれに通過していく。もしも全身を見たければ水量が少ない6〜10月頃に行くのがおすすめ。今回、クロコダイルと野鳥を十分に目撃しましたが、動物全般は乾季の方が多くなるので、私も再訪を計画中。次々と色んな動物に遭遇するクルーズは天然のアトラクションですよ。

ちなみに、まばたきしないクロコダイルの瞳や美しい羽をもつ野鳥を前にしたら、iPhoneの限界を感じました。バズーカ砲みたいな望遠レンズで撮ってみたいですね。あとやっぱり、ラコステのポロシャツを着ていくべきでした。
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カカドゥへの旅にはワイルドな宿が似合う

カカドゥ旅の拠点としたのは「クイーンダ ロッジ カカドゥ」。記述の「イエローウォータークルーズ」が行われる湿地帯のすぐ近くにある、ひとつの村のようなお宿です。カカドゥらしいのが施設内にガソリンスタンドがあること。クルマで来る旅人も多く、ガソリン切れはこの地の旅では致命傷になるからです。

客室はロッジとテントに分かれ、ここまで来たら後者がおすすめ。テントといえど、きちんとしたベッドが置かれ、エアコンも完備。ただし前者は全室にバスルームがつきますが、後者はシェアの場合もあり。最もランクの高いラグジュアリーテントなら安心です。ロッジ、テントともに先住民のアートを感じる装飾が施され、関連書籍が置かれているのにも注目を。
バス・トイレ供用のテント「アウトバックリトリート」は1泊2名約2万1000円〜
▲ バス・トイレ供用のテント「アウトバックリトリート」は1泊2名約2万1000円〜。
5棟あるラグジュアリーテントのうちのひとつ「バラマンディ」は1泊2名約9万2000円〜。テラスにバスタブが設置されていますが、サンドフライに要注意!
▲ 5棟あるラグジュアリーテントのうちのひとつ「バラマンディ」は1泊2名約9万2000円〜。テラスにバスタブが設置されていますが、サンドフライ(ハエの一種で、嚙まれるとかなり厄介)に要注意!
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レストランは1カ所で、そこで朝食からディナーまでを提供。ディナーでメインディッシュとしていただいたのは、カカドゥならではの肉と魚でした。
右上から時計回りにワニ、バッファロー、バラマンディ、カンガルー。
▲ 右上から時計回りにクロコダイル、バッファロー、バラマンディ、カンガルー。
この地を代表する巨大魚のバラマンディに、カンガルー、バッファロー、クロコダイル……あんなに何度も遭遇したクロコダイルが、唐揚げになって現れた!

レストランで提供されるクロコダイルは養殖で、鶏を餌としているので鶏に近い味がしました。野生は魚を食べているから魚の味がするのだとか。前者は運動しないから柔らかく、後者は運動するから硬くなります。
「クイーンダ ロッジ カカドゥ」ではコーヒーカップまでワニ太郎。
▲ 「クイーンダ ロッジ カカドゥ」ではコーヒーカップまでクロコダイル。
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この宿での私的ハイライトは、野生馬に遭遇したことでした。遭遇したのは宿の裏にあたる大草原。西に夕陽が沈み、東に月が昇る時間帯だったことで感動が最高潮に。

燃えるような真っ赤な空と、薄暮の空に光る月を背にする馬たちの美しいことといったら。そして、人っこひとりいない静寂。思い返すと幻のようです。
人が近づいても逃げません。
▲ 人が近づいても逃げません。
ぱっと見、砂の島のようなリゾート。
▲ 草原の隣の森に入っていく親子。
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1万年以上前に描かれた壁画に思いを馳せる

カカドゥ国立公園で必見となるのが、ノーランジーのロックアート。ロックアートが見られる遺跡の壁は、1万年以上前から人々のシェルターでありキャンバスでした。

砕いた石の粉とワラルー(ワラビーとカンガルーが混ざった動物)の血を混ぜたものを絵の具にし、赤や黄色を多用。石に鉄分があるから中まで染み込んで色が残っているそうです。
ロックアートが点在する岩山。
▲ ロックアートが点在する岩山。
ロックアートのあるウビルは夕陽の名所でもある。
▲ ロックアートのあるウビルは夕陽の名所でもある。
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石壁に描かれているのは、この土地のオーナーでもあるアボリジナルの人々に受け継がれる神話や伝承ごと。文字がないから壁に子孫が生きるために必要な情報を絵として残したのです。ハンティングや出産の様子、料理のレシピなど、見て周れば当時の暮らしが思い浮かぶ。なかには「こんな獲物とったど~!」という自慢の絵もあってSNSのようであります。

家族写真代わりの集合手形や、親族内で恋仲になったふたりが勘当されるメロドラマみたいな壁画も存在。禁断の恋の結末は、男性がクロコダイルの姿になって結婚したとか。太古からクロコダイルが生息していたことも分かりますね。
先住民をルーツにもつガイドのジョンさん。指差しているのはカンガルーで右にハンターが描かれている。
▲ 先住民をルーツにもつガイドのジョンさん。指差しているのはカンガルーで右にハンターが描かれている。
雷を鳴らすライトニングマンは壁画のなかで最も有名。カカドゥ国立公園内でのガイド依頼は「ボリワリ・ビジターセンター」で相談可。
▲ 雷を鳴らすライトニングマンは壁画のなかで最も有名。カカドゥ国立公園内でのガイド依頼は「ボリワリ・ビジターセンター」で相談可。
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カカドゥ国立公園を旅して出会うのは、先住民をルーツにもち、祖先の文化を守る地元住民たち。伝統的な土地の所有者として知られるのはビニンジュ・ムング族で、彼らは6つの季節のなかで自然と共存しています。

ノーザンテリトリーの先住民は自分の故郷を「マイカントリー」と呼び、それは個人の強いアイデンティティを形成するもの。部族ごとに、法律、アート、家族関係、風習、言葉など、人の誕生から死に至るまでのあらゆることが部族の伝統に基づいています。そんな彼ら独自の文化を知るのもカカドゥ旅の醍醐味です。
「ボリワリ・ビジターセンター」では先住民にルーツをもつ住民によるカゴ作りを見学。
▲ 「ボリワリ・ビジターセンター」では先住民にルーツをもつ住民によるカゴ作りを見学。

遊覧飛行で絶景を目撃する

大自然の極みは未開の土地。公道が少なく、地上でアクセス出来る場所が限られているカカドゥはまさにそんな場所です。では、その雄大さを最大限に楽しむにはどうするか? 空から眺めればいいのです。
カカドゥエアは遊覧飛行業界で36年の実績をもつ老舗。
▲ カカドゥエアは遊覧飛行業界で36年の実績をもつ老舗。
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宿からクルマで約40分の場所にあるカカドゥエアの飛行場に移動し、小型機に乗り込みます。私たちを空に連れていってくれたのはケンジーさんという若い女性パイロット。パイロットたちは操縦しながらガイドも務め、「右下にクロコダイルの形をした老舗ホテルが見えますよ」「左にジムジムフォールが見えてきました」と見どころを教えてくれます。
分刻みで景色が変わっていく。
▲ 分刻みで景色が変わっていく。
断面のレイヤーが美しい岩山。
▲ 断面のレイヤーが美しい岩山。
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眼下にひたすらジャングルが続いたと思えば、湿地帯となり、絶壁から瀑布が流れ落ちる。何万年という時が作った山の岸壁も大迫力。未開の土地が続きます。小型機の翼や車輪が絵の中に映りこんだ写真を観て、人がお邪魔した形跡がようやく分かる。人間って、道を作る人が一番偉いんじゃないかとすら感じてきます。
壮大なジムジムフォール。遊覧飛行は60分1名約2万4000円。
▲ 壮大なジムジムフォール。遊覧飛行は60分1名約2万4000円。https://www.kakaduair.com.au

最後にダーウィンで旅をおさらい

遊覧飛行を最後にカカドゥから離れ、一路ダーウィンへ。翌朝のフライトに合わせて「ヒルトン ダーウィン」にチェックインしたのですが、久しぶりのシティホテルにときめいてしまった。人の感性は3日で野生に戻るのか、「大都会に来たもんだ」と思ったのです。

ロビーの設えやピシッと張られたベッドのシーツを見て、「ヒルトン」はどんな場所にあってもワールドスタンダードがきっちり守られているとも実感。なぜビジネスで愛用されているのか分かった気がしました。絶対の安定感があって、仕事以外の何かに振り回されることがないのでしょう。
骨材が巨大でモダンなのが久しぶり。
▲ 骨材が巨大でモダンなのが久しぶり。
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海までを見渡す「キング ゲストルーム(36㎡)」。1泊約3万3000円〜
▲ 海までを見渡す「キング ゲストルーム(36㎡)」。1泊約3万3000円〜 。
また、最終日の観光としておすすめなのが、「ノーザンテリトリー博物館・美術館」。既に実体験のある場所や、そこにゆかりのある展示が揃うので、「あの鳥の仲間にこういう種類もいるのか」と、前のめりで見学を楽しめます。
「ノーザンテリトリー博物館・美術館(Museum Art Gallery of the Northern Territoy)」に展示されていたトップエンドの動物見本。
▲ 「ノーザンテリトリー博物館・美術館(Museum Art Gallery of the Northern Territoy)」に展示されていたトップエンドの動物見本。
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クラフトビールのタンクが並ぶ「Six Tanks Brew Pub」。ワイルドな旅のあと、出来立ての一杯が沁みる。
▲ クラフトビールのタンクが並ぶ「Six Tanks Brew Pub」。ワイルドな旅のあと、出来立ての一杯が沁みる。
出国日、帰路への寂しさと安堵を胸にダーウィン国際空港に着くと、カウンター頭上にはアボリジナルアートが。先住民の文化を旅人に誇ることを、最後まで実感した瞬間でした。

振り返ればここまで未開の地を旅したのは初めてで、興味深いのが未開のまま観光を推していること。観光客を呼ぶと考えた時、インフラを整備したり飲食店やショップを作るのではなく、そのままでいる。どことも似ていない大自然と出会ったのは、それゆえでしょう。

先住民と自然への尊厳に溢れたノーザンテリトリーは、旅先としてひと際エキゾチック。新たな価値観を知るこの冒険を、人生で一度体験してみては?
アボリジニのギャラリーを兼ねているようなダーウィン国際空港。
▲ アボリジナルアートのギャラリーを兼ねているようなダーウィン国際空港。
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■ お問い合わせ

AAT Kings (日本語ガイド在中のツアー会社)
取材協力/ノーザンテリトリー政府観光局
※価格はすべて編集部調べ 1オーストラリアドル90.93円で計算

大石智子(おおいし・ともこ) フリーランス・ライター

● 大石智子(おおいし・ともこ)

出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。

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