2024.07.29
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」は何がスゴイ!? 名品と呼ばれる理由を徹底解説!
世界的に入手困難な状況が続いている、オーデマ ピゲの名作『ロイヤル オーク』。なぜ、それほどの人気を博しているのか!? ラグジュアリースポーツというジャンルを生み出した傑作時計の魅力と、秘密を歴史からメカニズムまで完全解説します。
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文/高木教雄
オーデマ ピゲの代表モデル「ロイヤル オーク」はなぜ傑作と呼ばれるのか?
ロイヤル オークはこれらすべてを兼ね備えているからロングセラーとなり、大ヒットを続けています。50年以上前に生まれたモデルが、今も傑作と呼ばれ、進化し続けている理由を、徹底解析します。
目次
一大ジャンルとなったラグジュアリースポーツは、ロイヤル オークが生み出した!?
そうして生まれたロイヤル オークのブレスレット一体型のフラットな薄型時計というスタイルは、現在に続くラグジュアリースポーツウォッチ(通称、ラグスポ)という一大ジャンルを築き上げることになったのです。
その魅力を3つのポイントで解説いたしましょう。
POINT 1 ステンレススティールをドレッシーに仕上げた
マットなヘアライン仕上げはスポーツウォッチの、輝くようなポリッシュ仕上げは高級時計の、それぞれ常套でした。そしてロイヤル オークは、ケースやベゼル、ブレスレットの表面全体をヘアラインで仕上げ、側面や面取りしたエッジはポリッシュし、完璧な鏡面状にしています。
こうすることでSS製の外装にメリハリをつけ、造形を際立たせて高級感を創出したのです。
しかし、硬質なSSを加工するのには大変な手間がかかります。例えば、ベゼルだけでも完成するまでには、28の工程を経るとか。オーデマ ピゲは美の創造のためには手間暇を惜しまないのです。
POINT 2 ラグ一体型の美ブレスレット
さらにブレスレットをケースの上下両サイドのラインから連なるように滑らかにテーパードさせ、かつ側面を同じポリッシュ仕上げとすることで、ケースとの連続性を生み出したのです。
テーパードブレスレットは、すべてのリンクの形状が少しずつ異なるため、コマ詰めしていない状態では、実に154個ものパーツが必要になります。
POINT 3 従来のスポーティウォッチにない薄型ケース
そのためにムーブメントには、当時デイト機能が付いた自動巻きでは最も薄かった3.05mmのCal.2121が選ばれました。
結果、7.8mm厚というその頃のスポーティウォッチとしては異例の薄型ケースを実現。薄いケースはスタイリッシュであり、高級感を高めてくれます。
さらにケースを2ピース構造として、ラバー製のカップにムーブメントを収めてベゼルとビスで固定することで、薄くても50mというスポーツウォッチとして必要な防水性能も備えていました。
時計愛好家を魅了するロイヤル オークの代表モデル
オーデマ ピゲは、持てる技術力を余すことなくロイヤル オークに注いでいるのです。
「ロイヤル オーク オートマティック」
ダイヤルは初代と同じ色をPVDで再現した、名付けて“ナイトブルー、クラウド50カラー”。
同じく初代から受け継ぐグランドタペストリー装飾は、自動化した19世紀のギヨシェ旋盤で1枚ずつ彫って作られています。
「ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン」
本モデルでは、アイコニックな八角形ベゼルをフロステッドゴールド仕上げに。時計師が手ずからダイヤモンドチップツール付きの突起状の電動ハンマーで、ゴールドの表面をを繰り返し打ち付けることで、霜のような細かな凹凸のある独自のテクスチャーを生み出しました。
ブウランのダイヤルは、手打ちで優雅なディンプル模様が織り成した上から、サークル状のサテン仕上げが施されています。工芸的な美を放つ外装が、フライング トゥールビヨンを一層魅力的なものにしました。
構造上どうしても高さが必要となるトゥールビヨンを自動巻きに搭載しながら、ケース厚を10.6mmに抑えてみせたのも、優れた技術力の賜物です。
「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」
こちらは、外装にメゾン初のブルーセラミックを用い、全体をブルーのトーン・オン・トーンでスタイリッシュに装いました。極めて硬いセラミックであっても、ヘアラインとポリッシュとに完璧に仕上げ分けているのは、お見事。
搭載する永久カレンダーは、初代ロイヤル オークから長く用いてきたCal.2121をベースとした薄型設計で、複雑機構搭載でも、9.5mm厚という薄いケースを叶えています。時分針と同軸にある針は、秒針ではなく週数表示。
超高精度のムーンフェイズのディスクにはアヴェンチュリンを用い、そこに配した月は、リアルな姿が再現されています。
ロイヤル オークの生みの親、ジェラルド・ジェンタを知っていますか?
オーデマ ピゲから依頼を受けた1970年は、デザインした時計が国際的な賞に輝き、ジェラルド・ジェンタSAを設立した翌年です。会社の存続をかけた重要な仕事に際し、ジェンタは自らをホテルに軟禁してデザインに向き合いました。そして驚くことにたった一晩で、最初のデッサンを描き上げたとか。
上掲がそのスケッチで、すでにロイヤル オークを構成する主要なディテールが出来上がっています。前述したラバーのカップにムーブメントを収める構造も、ジェンタのアイデア。
デザインだけに留まらず、時計製造全体に精通していたからこそ、スポーティとラグジュアリーとを融合する難問を解決できたのです。その後も、数々の傑作時計を世に送り出した彼を、人は称して“時計界のピカソ”。多くの時計関係者が天才と認めたデザイナーは、2011年に家族に見守られこの世を去りました。
時計通が語るロイヤル オークの魅力とは
「成功の理由は、デザインだけではない」(『クロノス日本版』編集長・広田雅将)
薄いのに防水性が高く、どんな服装にも合わせられるデザインを持っていたためだ。
インデックスや針はドレスウォッチ並みに細いのに、ベゼルはスポーツウォッチよろしく太め。両者を合わせると普通デザインは破綻するが、高度にまとめ上げたところに、このモデルが成功を収め、定番になった理由がある。
● 広田雅将(ひろた・まさゆき)
『クロノス日本版』編集長。1974年生まれ。サラリーマンなどを経て2004年から時計専門のフリーライターとなる。2016年から現職。現在、ジュネーブウォッチグランプリアカデミーメンバー。
「上質にして万能なオンリーワン」(時計ジャーナリスト・高木教雄)
初代の姿を忠実に継承する現行モデルは、上質な仕上げと薄型ケースがドレッシーで、またダイヤルは華やかながら落ち着いた色合いでもあり、カジュアルにも袖口をタイトに絞ったスーツスタイルにも合わせやすいからだ。
ここまで万能なモデルは、他にはない。開発時の明確なコンセプトが、完璧な形となった稀なる好例。
● 高木教雄(たかぎ・のりお)
時計ジャーナリスト。1962年生まれ。大学では機械工学を学ぶ。1990年代後半から時計を取材対象とし、時計専門誌やライフスタイルマガジンなどで執筆。スイスで開催される新作時計発表会に加え、工房取材を積極的に行う。著書に『世界一わかりやすい腕時計のしくみ』(世界文化社)など。
「相反する概念がスタイルに閃きを与える」(『Web LEON』編集長・石井 洋)
ロイヤル オークをファッション目線で語る際、ハイライトとなるのは“相反する要素の付与効果”。
デザインコードの秘密は他所に譲りますが、ラグジュアリースポーツという相反する概念をひとつにしたデザインの確立こそ、上記効果の源。
スタイルに閃きを与え、ステージをランクアップさせる名作中の名作に位置します。
● 石井 洋(いしい・ひろし)
『LEON』『Web LEON』編集長。1974年生まれ。エディターとして多方面で活躍した後、ミドルアッパー層に向けた男性ライフスタイル誌『LEON』に参画。2017年3月より同誌編集長に就任。現在はオフィシャルWEBサイト『Web LEON』編集長を兼任する。
まだまだ凄い! オーデマ ピゲのコレクションを紹介
1993年に“エクストリームスポーツウォッチ”として生まれた「ロイヤル オーク オフショア」
そして1993年、八角形のビス留めベゼルやタペストリー装飾のダイヤルといったロイヤル オークのデザインコードを受け継ぎながら、より大きく力強く、大胆に生まれ変わらせた“エクストリーム スポーツウォッチ”が誕生したのです。
革新的ムーブメントを搭載する「ロイヤル オーク コンセプト」
本モデルはクロノグラフとトゥールビヨン、そして裏蓋側に反響盤が備わるミニッツリピーターを統合した超大作。
スケルトンダイヤルをファーストモデルからデザインコードとし、八角形ベゼルに沿って強くファセットカットしたケースのフォルムは、“オフショア”以上に大胆です。
ブランドDNAを集成した新アイコン「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」
ケースには八角形のミドルケースが隠れており、サファイアクリスタル風防の内側と外側の曲線が異なるダブルカーブにより時計を傾けるとダイヤルが様々な表情を見せるなど、今までの時計界にはなかったデザイン文法でまったく新しいスタイルが創出されました。
本モデルは、2020年発表モデルのひとつ。正面からだとWG製のベゼルやラグしか見えませんが、傾けるとPG製のミドルケースが現れる、バイカラーの横顔が新鮮です。
オーデマ ピゲの歴史をひもとく
後に何度も改良が加えられた創業者の初作は、最終的に永久カレンダーとムーンフェイズ、クロノグラフ、クォーターリピーターを統合したメゾン初のグランド コンプリケーションとなりました。つまり、オーデマ ピゲが得意とする複雑機構のDNAは創業当時から続くものなのです。
修業時代から複雑機構の優れた作り手として知られたジュール=ルイ・オーデマの工房には、名だたる時計ブランドからの注文が殺到。それをこなすため、彼は2歳年下の幼馴染の時計師、エドワール=オーギュスト・ピゲを工房に迎え入れました。そして1882年、二人の姓を組み合わせた時計ブランド、オーデマ ピゲを設立したのです。
その初代の姿を継承する現行モデルに付けられた“ジャンボ”のミドルネームは、39mmケースが1972年当時ではあまりに大きかったため、それを揶揄して時計関係者が付けた愛称でした。
大きすぎるSSウォッチは、前述したように製作に手間とコストがかかるから、ゴールドウォッチよりも高価でもあったため、市場の不評を買ったのでした。
しかし家族経営であるオーデマ ピゲは自身のクリエイションを信じ、29mmのレディースモデル、ゴールドモデル、SS×YGのバイカラーモデルを立て続けに発表。そして1977年には35mmのSSモデルの大ヒットにこぎつけました。
この成功によりロイヤル オークは多くのフォロアーを生み、後にラグジュアリースポーツウォッチの始祖と呼ばれるようになったのです。
また、1993年にリリースされたダイヤル6時位置に第2時間帯表示が備わるデュアルタイムは、復活を望む声が多い幻の名機です。
ロイヤル オークが象徴するように、オーデマ ピゲはいつも時代の一歩先を歩んできました。初代ロイヤル オーク オフショアの“ジャンボ”を超える42mmの大型ケースは、当時“ビースト”と酷評されましたが、やはり後には人気を博し、今では標準的なサイズとなっています。
“CODE”とはChallenge(挑戦)、Own(継承)、Dare(追求心)、Evolve(進化)の頭文字で、“11.59”は新しい日付に変わる直前の時刻。ロイヤル オークがラグスポという新たな時計のジャンルを開拓したように、CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲはクラシックなデザインを受け継ぎながら進化させ、さらにモダンなディテールと組み合わせることで既存のカテゴリーには収まらないまったく新しい高級時計の時代の扉を開けようとしているのです。
家族経営だから可能な自由で大胆な発想と、それを形にできる技術力、最上級の美をもたらす伝統技術を有しているのが、オーデマ ピゲの強みであり、魅力です。
オーデマ ピゲはまだまだ成長を続けていくことでしょう。2021年にはメゾンの独創的なメカニズムを支えるムーブメント会社オーデマ ピゲ ル・ロックルのための広大な新ファクトリーを完成。また、ル・ブラッシュ駅の近くに建てた新たな本社工場も稼働の時を待っています。
来年迎える創業150周年に向け、オーデマ ピゲは万全の態勢を整えました。どんなに斬新な記念モデルが登場するのか、今から期待に胸が膨らみます。
■ お問い合わせ
オーデマ ピゲ ジャパン 03-6830-0000